リタイアしたいが、後継者がいない

しかし、なぜ、調剤薬局のM&Aは、頻繁におこなわれるようになったのでしょうか。M&Aが市民権を得てきたこともありますが、最も大きな要因は、売り手も買い手も大幅に増えているからです。

売り手が増えている理由は、読者の皆さんも推測がつくかと思います。弊社に相談に訪れるオーナーの多くは、「年をとって、体がきつくなってきたので、そろそろリタイアしたい」「しかし、後継者がいない」、この二つを理由に挙げます。

他の業界と同様に、薬局オーナーもまた、「団塊の世代」の人が多数派を占めています。読者の方も、この世代であることが多いのではないでしょうか。

  • 「家業の薬局を継ぎ、保険調剤への進出など新たな試みを手がけてきた人」
  • 「戦後に自ら開業し、苦労して今の薬局を育て上げてきた人」
  • 「薬局過疎地で、地域住民と共に歩んできた人」」

など、それぞれの方が、さまざまな歴史を辿ってこられたことでしょう。

60歳を過ぎると、一般企業に勤めている友人や親戚が定年退職し、のんびりと生活するのを見かけるようになります。そんな姿を見れば、誰でも、大なり小なり、自分自身のリタイアについても意識し始めるのが自然です。

個人保証を背負いながら、医療機関との関係維持や資金繰り、薬剤師の確保などに気を回す……。薬局オーナーが抱える重圧は、経験した人でないと分からないものです。また、自らが薬剤師であるオーナーなら、現場での実務にも携わっているはず。「この忙しい毎日からそろそろ解放されてもいいのではないか?」。そんなふうに考えるわけです。

ところが、ほとんどの人は、「後継者の不在」によって、リタイアできずにいます。
子供に継いでもらえれば安心ですが、子供が跡を継ぐケースは、それほど多くありません。薬局オーナーの子弟は、薬剤師ではなく、医師になっていたり、上場企業に勤めていたりすることがよく見受けられます。その職を捨ててまで、親の経営する薬局のオーナーをしようという人はなかなかいないようです。

また、子どもが薬剤師でも「継がせたくない」という人もいます。子供には、資金繰りや医療機関との関係に気をもんで欲しくない、というわけです。

では、従業員はどうかというと、多くの薬局オーナーは「適任者がいない」と口を揃えて言います。大手調剤薬局の出店攻勢やドラッグストアチェーンの調剤事業進出などで、薬剤師はまだまだ人手不足が続いています。そんななかで、小規模な薬局、とくにパパママストア的な薬局には、跡を継げるほどの優秀な人材を集めにくいものです。優秀な人材でも、出産で離れていってしまった、あるいは子育てや介護などで経営まではタッチできない、というケースは多いのではないでしょうか。

優秀な薬剤師が確保できない状況は、今後も変わる見込みはなさそうです。まして、2012年までは、薬学部の6年化にともない、新卒の薬剤師が世に出てきません。薬剤師不足がますます深刻化することは確実でしょう。

かといって、「廃業」はというと……、なんとしても避けたいと考える人が大半でしょう。廃業すれば、長年付き合いのある患者さんや医療機関、従業員に大きな迷惑をかけることになります。特に、周辺に薬局のない地方の薬局では、簡単にはやめられないでしょう。そして、何より、我が子のような薬局を消滅させたくはありません……。

M&A、薬局譲渡を選ぶ人が増えている理由には、このような状況があります。

売り手も買い手もM&Aを強く求めている

売り手も買い手もM&Aを強く求めている

アテック株式会社 取締役社長 鈴木 孝雄
「薬局オーナーのためのハッピー・M&A読本」より

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