薬局経営に乗り出し、ノウハウを蓄積する

そして、1991年、アテックはスタートしました。もっとも、調剤薬局M&Aのノウハウを持つ人がいないだけに、実務については、完全に手探りの状態でした。

なかでも、勝手が分からなかったのは、「譲渡価格の相場」です。

既存の薬局を譲渡する場合、その価格は、新規で薬局を開業するときと比べ、高価になるということは、先の経験で既に分かっていました。医療機関の門前に店を構えるのは、新規開業ではなかなか難しいことですが、既存の薬局なら、容易に可能になります。また、同じ薬局名で引き継げば、既存のお客さんも引き継げる可能性が高いでしょう。こうした「営業権」「のれん代」が加味されるから、値段が高くなるわけです。

問題は、その「営業権」をどうやって算出するか、でした。

調剤薬局のM&Aの事例を調べても、ほとんど見つからず、営業権の相場はあってないようなもの。もちろん、このような状況なら、口八丁手八丁で法外な値段をふっかけて、儲けることも可能でしょう。

しかし、私は、営業権の価格を論理的に算出するシステム、言うなれば「薬局評価シュミレーションシステム」をじっくり構築することを選びました。誰でも納得できる算出基準をつくらなければ、お客様の信頼は得られず、長続きしないと考えたからです。また、今後のニーズの高まりを考えれば、今のうちから準備しておくべきであるという考えもありました。

それと同時に、私は「調剤薬局の経営」に乗り出しました。実際に経営してみれば、どんな要素が薬局の価値を左右するのかを、より詳しく検証できる。また、価格に限らず、薬局業界をより深く知ることにもつながると考えたのです。

さらには、その薬局で独立支援制度をつくり、独立希望の薬剤師を募りました。売却希望の薬局が出てきたときに、彼らに買い手となってもらい、譲渡後の利益などの情報を聞いていけば、価格の相場が見えてくる、と思ったのです。また、融資元の金融機関との信頼関係を築くために、当初は、一緒に働いて信頼できることを確認した薬剤師を金融機関に紹介したい、という考えもありました。

薬局経営を通して、売り手も買い手も納得がいく営業権の相場を探る日々。自信を持って価格をはじき出せる評価システムを生み出すまでには、丸3年を費やすことになりました。

しかし、ここで手間暇をかけたことが、お客様の信頼を勝ち取ることにつながっていきます。ちなみに、「薬局評価シュミレーションシステム」は、その後も改訂を加え、今では全国各地の薬局の価格が、正確に素早く算出できるようになっています。

アテック株式会社 取締役社長 鈴木 孝雄
「薬局オーナーのためのハッピー・M&A読本」より

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