初めてのM&A案件を成功に導く

こうして、「薬局評価シュミレーションシステム」は完成したわけですが、創業から3年間は、チェーン店以外の売り手から問い合わせが来ることはありませんでした。調剤薬局業界において、M&Aの認知度はまだまだ低かったからです。

各地の薬局を回り、売り手を探しても、ほとんどが門前払い。「薬局のM&A」というと、その言葉の響きから怖がられることも少なくありませんでした。そこで、当初は「薬局売買」という言葉を使っていましたが、これはこれでネガティブなイメージを与えていたようです。「これぐらいの価格で売れます」と理詰めで譲渡価格の目安を提示しても、信じてもらえることは皆無でした。

幸い、薬局経営などで、収入のアテはありましたので、薬局業界の専門誌に広告を出して、気長に問い合わせを待つことにしました。

すると、創業4年目のある日、一件の電話がかかってきました。相手は、東京東部で薬局を営むオーナーの奥様。「主人が脳梗塞で倒れてしまった。廃業せざるを得ないと思っていたのだが、誰かに譲渡できないか?」というのです。

その案件は、駅から遠い立地でしたが、近隣に医療機関があり、弊社がサポートすれば、十分に譲渡先が見つかりそうな案件でした。そこで、何人かに打診したところ、さっそく、同じ区で薬局を営んでいるオーナーが、買い手に名乗りを上げてくれました。満を持して評価システムを使い、譲渡価格を算出すると、双方から「問題ない」との返答が。その後の交渉も順調に進み、スムーズに譲渡契約を結ぶことができたのです。

こうして滞りなく交渉をまとめられたことも嬉しかったのですが、それよりも印象的だったのは、売り手と買い手、双方から喜びの声をいただいたことです。売り手にとてっては、「主人が倒れて、先行き不安な中、薬局をお金に換えることができた」、買い手にとっては「良い案件を適正な価格で譲り受けることができた」と非常に感謝されました。「ありがとう」と言われたその喜びは、今でも忘れることができません。

調剤薬局のM&A仲介は、予想以上に、人々に幸せをもたらす仕事である。最初の仲介でその実感を得られたことは、私にとっても非常に幸運なことでした。

アテック株式会社 取締役社長 鈴木 孝雄
「薬局オーナーのためのハッピー・M&A読本」より

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