引く手あまたの「売り手市場」

一方、買い手はどうかというと、幅広い層が、薬局の譲渡を求めています。たとえば、拡大志向の大手チェーン店。また、現在、チェーン店や病院に勤めているけれども、「ゆくゆくは独立して店を持ちたい」と考えている若手薬剤師などです。

既に営業中の薬局が求められる理由は、第一に、「新規開業のハードルが高い」ことがあります。

まったく新しい地域で調剤薬局を開業し、一から顧客を獲得していく。オーナーの皆様なら、その難しさがよく分かるでしょう。新参者が医療機関の門前に店を出すことは容易ではありませんし、医療機関から離れた場所で「面分業」をするといっても、簡単に顧客をつかむことはできません。患者さん、特に年輩の患者さんには、「素性の知れない薬局より、気心の知れた行きつけの薬局で薬をもらいたい」という心理があります。

そう考えると、既に地域で実績をつくり、固定客を持っている薬局をそのまま引き継ぐに越したことはありません。

また、大手ドラッグストアや医薬品卸の調剤薬局事業が積極的に参入している影響で、競争は年々激化しています。その競争に勝ち抜くために、大手・中堅チェーン店や、2~3店舗を営む小規模チェーン店は、事業の拡大を急いでいます。彼らにとっても、新規出店で患者さんをつかむことは難しく、既存の薬局の買収を重要視しています。

このような状況から、調剤薬局は、規模の大小にかかわらず、引く手あまたの「売り手市場」になっています。

それを如実に表しているのが、薬局の譲渡価格です。中小調剤薬局のM&Aは、買い手が売り手の薬局事業を買い取る「事業譲渡」によっておこなわれることが多く、その時に支払われる金額の相場は、おおよそ営業利益の3~5年分。案件によっても異なりますが、ほとんどの場合は、数千万円にはなります。

その譲渡価格が、2000年代前半と比べると、3~5割は上昇しています。「条件の良い薬局があれば、多少高いお金を払ってでも買い取りたい」というわけです。

また、以前と比べれば、それほど大きな利益が出ていなくても、買い手がつく傾向も出てきています。技術料が月200万円を超えている薬局なら、問題なく譲渡可能。月150万円程度でも、たいがいの場合は、譲渡できます。過去には、技術料がそれ以下、たとえば月100万円で、譲渡先を見つけた事例もありました。また、金額にもよりますが、債務を抱えている薬局でも、譲渡を実現したケースは珍しくありません。

現在は、売り手にとっては、薬局譲渡の絶好のチャンスといえるでしょう。

買い手から見た新規出店とM&Aのメリット・デメリット

 メリットデメリット
新規出店・一から薬局を作り上げることができる・医療機関の門前に出店するのが難しい
・薬剤師を集めるのが困難
・機器類を新たに購入する必要がある
・一から顧客を集める必要がある
・開店までに時間がかかる
M&A・医療機関の門前に出店するのが容易
・既に顧客がいる状態から始められる
・既に薬剤師や機器類が揃った状態で引き継げることが多い
・スピーディに出店できる
・売り手との交渉が面倒
・場合によっては、薄外債務を引き継ぐ可能性がある

だからM&Aを選ぶ買い手が多い

アテック株式会社 取締役社長 鈴木 孝雄
「薬局オーナーのためのハッピー・M&A読本」より

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