Q. まだ40代だけど薬局経営に疲れた。薬局を売ってのんびりしたいが、どうすればいいか?

田中真一さん(仮名・41歳)は、現在、小さな薬局を経営者として、また管理薬剤師として一人で切り盛りしています。

「もともと独立志向が強く、大学生の時には『40歳までに独立して、いずれは小さいながらもチェーン展開をする』という目標を掲げてました」(田中さん)。  

夢を実現させるため、最初に教育システムが整った大手調剤薬局チェーンで基礎を学び、次はマーケティングのセンスを磨くために大手ドラッグストアに転職。そして最後の仕上げとして地域に根差した小規模薬局チェーンで働きました。平行して独立資金の貯金にも励みました。

そして37歳の時、独立のチャンスはやってきました。たまたま懇意にしていた医師から「開業するので、ぜひ、近くで薬局を開局してほしい」と頼まれたのです。すでにオーナーとしてやっていく自信はあったし、また、貯金も何とか目標額を達成していました。独立にまったく迷いはなかったそうです。

リスクを避けるために、自分一人で運営できる規模の店にしました。まず一人でやってみて、経営が落ち着いたら、事務の人を入れる。非常に堅実な独立でした。実際に自分で店を持ち、店内のレイアウトや調剤の手順や在庫量など思い通りに決めることは、想像以上に楽しいことでした。また、これまで経験したドラッグストアや調剤薬局などタイプが異なる店の良い点を取り入れ、田中さんなりの理想のマニュアルを作ることも楽しい作業でした。幸い、開局を誘ってくれたクリニックも順調に患者が増え、その多くが田中さんの薬局を利用したので、順調に 売り上げが伸びていきました。開局後半年で事務の人を雇う余裕もできました。 

「ところが、3年を過ぎた後から、何だか妙に疲れてきたのです」

狭い店内に朝から晩まで仕事……。薬剤師は自分一人だけなので休暇もとれないし、息抜きの話し相手にも事欠く状態。多忙過ぎて未だ独身です。度重なる調剤報酬改定が、追い打ちをかけます。

「改定の度に条件が悪くなっていく。中でも2014年4月の改定はへこみました。ジェネリックの調剤体制加算の要件が大幅に引き上げられたり、基準調剤加算の要件に在宅が入ったり…。なんだか、経営者としての将来に自信をもてなくなってきました」

田中さんの今の望みは、しばらくのんびりすること。旅行に行ったり、昔の仲間と飲みに行ったり、コンサートに行ったりとやりたいことも満載です。できれば半年から1年後くらいに就職し、以前のようにサラリーマン薬剤師として働き、結婚もしたいと考えているそうです。

さて、半年から1年分の生活費と、将来の結婚資金、できれば老後資金も欲しいと考えている田中さんが選ぶべきは事業譲渡? それとも株式譲渡?

A. 株式譲渡によって譲渡益を個人所得に 分離課税の手続をすれば税率は20%

田中さんの場合は、プライベートな資産と会社の資産はきちんと切り離されているので、迷うことなく株式譲渡を選択すべきでしょう。

田中さんのように、なるべく手間をかけたくない人に、まず、アピールしたいポイントは手続きの簡単さ。株式の譲渡手続きを一度すれば、店の権利から各種認可、薬の在庫、リース契約、ローンの残高まで、店にまつわるありとあらゆる権利や債務の引き継ぎは完了です。それに対して、事業譲渡の場合は、先にあげたひとつひとつの手続きをすべて別々にやらなくてはなりません。田中さんは、もう会社を所有する気もないわけですから、最終的には廃業手続きまで必要となります。ゆっくりしたい田中さんには向かない方法だといえるでしょう。

それでは、今度は税金面からみてみましょう。株式譲渡であれば、田中さんが得る譲渡益は、田中さん個人の収入になります。ですから、田中さんの給与と譲渡益の合計額に所得税がかかることになりますが、分離課税の手続きをすれば、譲渡所得税は20%になります。仮に所得税が20%以下であれば合算したままの方がおトクです。それに対して、事業譲渡を選べば、田中さんの会社の一部を売却することになるので、譲渡益は田中さんではなく、田中さんの会社の収入になり、譲渡益に法人税がかかります。

通常は、さらに退職金扱いにした場合の退職所得控除と株式の譲渡所得税とどちらが有利か比較しますが、田中さんの場合は勤続年数が少ないので、比較する必要はありません。

分離課税とは?

所得税には「総合課税」と「分離課税」があります。総合課税は1年間の総所得金額に対して課税され、分離課税は他の所得と合計せず分離して税額を計算。税率は一律です。

分離課税とは

薬局系事業承継の決定版
「上手に薬局を譲渡するための、たった一つの方法」より

< 前のページへ

次のページへ >