Q2.息子は全員サラリーマン。跡継ぎがいないので、薬局を売却して財産を平等に分けたい。どんな準備が必要?

村上英二さん(仮名・65歳)は、現在、3店舗の薬局を経営しています。かつては大学病院の薬剤師でしたが、懇意にしていたドクターから「独立するので、近くに調剤薬局をつくらないか?」と誘われたことが開局のきっかけでした。

当時の村上さんは、一人目の子供が生まれたばかり。「大学病院にいた時には残業が多かったし、家も遠かったので、出かける時も、帰宅した時も子供は寝ている。『このままでは、私の顔を忘れてしまうのでは…』と本気で心配していたところにドクターから声をかけられました。まさに渡りに船。迷いませんでしたね」

最終的に3人の男の子に恵まれ、村上さんは、できれば平等に、一人に一店舗ずつ薬局を残したいと考えるようになりました。息子は全員サラリーマン。跡継ぎがいないので、薬局を売却して財産を平等に分けたい。「小さいころは、どの子も『くすり屋さんになりたい!』なんて言ってくれましたからね…」

だから、子供たちが薬局オーナーとして活躍する日を夢見てがんばり、コツコツと店を増やしてきたのです。

ところが、結局、一人も薬学部には進みませんでした。もちろん、薬学部を出てなくても薬局の経営はできるので、「やっぱり薬局を継ぎたい」と言い出す息子が出てくるかもしれません。また、薬剤師の女性と結婚する可能性もあります。

村上さんは、息子さんたちへの承継をあきらめきれず、なかなか引退する決意がつきませんでした。そうこうしているうちに65歳になってしまったわけです。村上さんが引退を決意したのは、最後の砦だった三男が、薬剤師ではなく同僚女性と結婚したからです。息子たちも嫁たちも勤め先は大企業。冷静に考えれば、家業然とした薬局に興味を持つとは思えません。村上さんは、やっと現実を直視し、子供に継がす夢をあきらめました

薬局を継がないとなれば、平等に分けやすい現金で子供たちに財産を残すのがベストに思えます。息子たちはまもなく、家を建てたり、子供の教育費がかかったりと物入りな年齢に突入します。そう考えると、できるだけ早くお金を渡してやりたいし、そろそろ村上さん自身の老後の資金を用意しておきたいものです。そんな村上さんが選択すべきは、事業譲渡?それとも株式譲渡?

A. 株式譲渡株価を睨み、低い時にあらかじめ子供たちに分け、譲渡先が決まったら個々で売却する。

村上さんの一番の望みは、「子供たちにできるだけ多くの財産を残してあげること」。そのためのポイントは、税金を安くできるかどうかです。

オススメしたいのが、息子さんたちに、あらかじめ、村上さんの会社の株式を分けてしまうこと。株式で財産を分けても贈与税はかかりますが、株式の贈与には大きなメリットがあります。それは株価が安い時期を選べること。株価が安い時に譲れば、贈与税が少なくなります。

一般的に、株価が安い時期は、売却したいオーナー、この場合は村上さんに退職金を支払った後のタイミングです。退職金を支払えば、その分、会社の資産が減るわけですから株式の評価額は低くなります。この時点で村上さんにもメリットがでてきます。退職金には、控除があるからです。ちなみに、村上さんは35年務めたので、控除は以下のような計算になります。800万円+70万円×(務めた年数-20年)、つまり1850万円が控除の対象となります。

譲渡先が決まったら、息子さんたち3人が、それぞれ譲渡先に株式を売却することで現金化を図れます。分離課税を利用することで、息子さんたちが支払う税金は20%に抑えられます。

村上さんのように、株式の所有者がはっきりしており、譲渡先にすべての株式を譲渡すると確約がとれていれば不安はないので、譲渡先をみつける上で不利にはなりません。仮に村上さんが亡くなるまで放っておけば、株価が高くなっていたり、相続の対象者が変わり、不本意な相続が発生する可能性も。ご自身で見届けられる生前贈与がオススメです。

退職金の所得控除とは?

退職金に課税される所得税は分離課税になっていて、勤続年数に応じた控除があります。控除は勤続年数に応じて、下記のような計算式で算出されます。

退職金の所得控除とは

薬局系事業承継の決定版
「上手に薬局を譲渡するための、たった一つの方法」より

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