三代で築き上げた“まちの遺産”をバトンタッチできた

実例1 Aさん - 三代で築き上げた“まちの遺産”をバトンタッチできた

M薬局 Aさん
1947年生まれ。薬科大学卒業後、74年に実家のT薬局入局。仕事の傍ら鍼灸師の免許を取得。85年に跡を継ぎ3代目オーナー兼管理薬剤師に。63歳のときに薬局を譲渡してリタイア。

―― どんな薬局でしたか?

三代続いた都内ではわりと古い薬局です。当初は一般薬から日用雑貨まで売るような町のくすり屋さんでしたが、父の代に漢方相談に変わりました。その後、近隣の内科の先生の薦めで調剤も始めました。私自身は、漢方相談に生かすため、鍼灸師の免許をとりました。

―― リタイアを考えたきっかけは?

直接の原因は体調不良です。零細企業の運営は、高齢になるとなかなか大変です。片腕になるような薬剤師も思うように採用できませんからね。当時は3人雇ってましたが、みんなパート。全員揃うのは週に1日という感じです。やり残した仕事は全部私がやっていましたが、次第にその付加に耐えられなくなり、様々な体調不良に悩まされるようになりました。60歳の時ですね。そんな時に、仕事でミス。薬局を残すためには、人に譲るしかないんだとやっと決意が固まりました。

―― 譲渡するにあたっては、どんなことにこだわりましたか?

最大の目的は、私たちが育ててきた薬局を残してもらうこと。もっといえば発展させてもらうことです。そこで、譲渡先を選ぶ最大のポイントは、私と同じような考え方かどうかになるわけです。そこがずれれば、まったく違う薬局になりますからね。

―― 具体的には?

細かいことでいえば、「おくすり手帳のシールを渡せば50円高くなる」と患者さんにきちんと伝えるのか。ジェネリックを積極的に使うのかどうかなどです。こういう微妙なところの感覚が合う方にはお譲りしたいと考えました。その他にも、「大手チェーンよりも小規模店舗のオーナー」「経営者が薬剤師であること」「スタッフの雇用は維持するなど、様々な条件を付けましたが、面談3社目で理想的な方に巡り会えました。

―― 現在は?

1ヶ月ほど引継でお店に行きましたが、以後はノータッチ。噂では電子薬歴を充実させるなど改革も推進しているようです。リタイアしたら、少しのんびりしようと思ったのですが、結局、地域で薬やサプリメントの正しい使い方についての講演などをしています。薬物乱用ストップの教育など社会貢献活動を積極的に行いたい。リタイアしたら、後半人生でやりたいことがみえてきました。これがハッピーということなんでしょうね。