調剤薬局というと顧客も安定していて経営面に問題はないとイメージされることが多いですが、最近では将来の経営における事業承継で問題が発生し始めています。 ただ、近年はチェーン展開を狙う中規模メーカーや全国展開している大手企業などによる薬局のM&Aが盛んに行われており、事業承継の問題をクリアしているのです。 薬局のM&Aや事業承継を行う場合、どのようにして調剤薬局の企業価値や事業価値を決めているのでしょうか? そこで今回は、調剤薬局における企業価値・事業価値の評価・算定方法をご紹介していきます。 これからM&Aや事業承継を検討しているという方は、ぜひ参考にしてみてください。目次■調剤薬局のM&A取引相場は診療報酬改定によって変化薬局のM&A市場は将来的にどうなっていくのか?■赤字経営でもM&Aは可能なのか?■企業価値算定方法、それぞれのメリット・デメリット■自身の調剤薬局の企業価値・事業価値評価に悩んでいる時、どうすればいい?■調剤薬局のM&A取引相場は診療報酬改定によって変化 まずは、調剤薬局のM&A取引相場について解説していきましょう。 そもそも調剤薬局業界では調剤に必要な医薬品を卸会社などから仕入れ、処方されるのが一般的です。 医薬品を患者に処方することで医療費の自己負担分が調剤報酬として支払われ、残りは保険者から支払われます。 ただ、2016年の薬価制度の抜本改革に向けた基本方針により医薬品価格が改定され、2018年度からは2年に一度行われていた改定が1年ごとへと変わってしまいます。 これにより、医薬品の売上高が低下してしまったのです。 また、特定の処方箋を受けている門前薬局や薬局グループを持つ大手企業は低価格の調剤報酬が適用されるようになりました。 大手企業はまだしも、売上が安定している門前薬局でも売上が落ちてしまい、これまで安定した経営を行っていた薬局では経営面で不安を抱えるところが増えてきました。 その結果、現在のM&Aや事業承継の需要につながっています。 では、調剤薬局のM&A取引相場は現在どのようになっているのでしょう? そもそも調剤薬局というのは規模が比較的小さく、他の小売業と比べると初期投資にコストが掛からない傾向にあり、財務内容もスリム化されています。 そんな調剤薬局のM&Aでは、譲渡を検討する会社の収益をその会社に則ってシミュレーションして収益計算を行います。 今までの薬局M&Aでは将来キャッシュフローを計算する際に、3年〜10年という長期間で算出されていました。 これによって営業利益と減価償却費が3〜10年分になり、営業権を設定できるようになります。 しかし、2018年に診療報酬改定が2年に一度から1年に一度へ頻度が早くなり、同時に計算する際に収益性まで圧迫され、現在は約3年分の将来キャッシュフローで取引相場を計算しなくてはいけなくなってしまいました。薬局のM&A市場は将来的にどうなっていくのか? 薬局のM&Aの取引相場は分かりましたが、現状としてはまだ需要があり買い手企業や後継者を見つけられます。 しかし、数年後本格的にM&Aや事業承継を行おうとした場合、将来の推移はどう変化しているのでしょうか? 現在、売り手側である調剤薬局と買い手側である大手企業では、数に差が出ています。 厚生労働省が行った衛生行政報告例では、2017年度末時点で薬局数は5万9138件であり、徐々に増えていることが分かっています。 薬局数は増えているにも関わらず、現在は薬剤師不足に悩まされている薬局が多く見られます。 これは、少子高齢化によって若い世代がそもそも少ないという点と、薬剤師になるためには大学で6年掛けて勉強しなくてはならないという点が影響していると言われているのです。 今後さらに人材不足が深刻化していくと経営難に苦しむ薬局も増えていくことでしょう。 多くの薬局でM&Aが実施されれば、薬局側の供給過多な状態になってしまい取引価格がどんどん低下してしまいます。 適正価格よりも安く、なおかつ売り手側が納得できないような条件でしか買ってくれなくなってしまう場合もあるので、薬局の供給過多になる前に検討しておかなくてはなりません。■赤字経営でもM&Aは可能なのか? 先ほども述べたように、ネガティブな情報があるとM&Aを断られてしまうのではないかと不安に感じる方は多いかと思います。 確かにネガティブな情報、例えば赤字経営の調剤薬局はM&Aを成功させるのも一苦労です。 しかし、絶対にM&Aが失敗するわけではありません。 ・自身の調剤薬局の強み・弱みを把握する 赤字経営でもM&Aを成功させるために重要となってくるのは、まず自分の調剤薬局について強みとなる部分や弱い部分を知ることです。 M&Aで調剤薬局を買いたいと思っている企業側はその調剤薬局に対して相乗効果による売上アップ・事業拡大を望んでいます。 いくら赤字経営であってもM&Aを実施することで相乗効果が期待できるなら買い手企業も交渉に応じてくれるでしょう。 ただ、交渉する時にどんな相乗効果を引き出せるのかを買い手企業に説明しなくてはならないのに、調剤薬局が持つ強みや弱みをしっかりと把握できていないオーナーもいます。 上記の企業価値を算出する方法なども活用してオーナーは自身の調剤薬局は何が強みになっていて、逆に何が弱みになっているのか、あらかじめ把握しておきましょう。 ・経営を少しでも改善させる 赤字経営の調剤薬局に対して、喜んでM&Aを行う買い手企業はそうそうありません。 例え業務内容や周辺環境などが良かったとしても経理や社内システムなど、労務トラブルが発生している状態では買い手企業も積極的な交渉に移れないでしょう。 逆に、少しでも経営改善させるように取り組み、システムや環境を変えている調剤薬局は、現時点で収益が赤字になっていたとしても買い手企業との交渉はスムーズに行きやすいです。 すぐに黒字へ復活させることは難しいですが、できるだけ経営改善に取り組んでいきましょう。 ・タイミングを見極める M&Aが実行されるまで買い手企業を探したり、自社の経営状況を把握して企業価値を算出したり、様々な手続きを済ませたりと、行わなくてはいけないことも多く、最低でも3ヶ月、長ければ1年程度時間が掛かってしまいます。 そのため、例えば赤字経営でどうにも首が回らなくなった状態でM&Aを検討しても、なかなか買い手企業も決まりません。 場合によっては買い手企業が見つからずに廃業してしまう恐れもあります。 M&Aを実行する場合はあらかじめ情報収集を行ったり、M&Aをサポートしてくれる企業へ相談してみると良いでしょう。■企業価値算定方法、それぞれのメリット・デメリット 企業価値の求め方をよく分かっていない方は多いので、算定方法をご紹介しましょう。 また、企業価値算定の考え方には大きく分けて3つの手法があります。 それぞれ目的や用途に応じて考え方は変わり、メリットとデメリットがあるので把握することが大切です。 【事業譲渡をする場合の算定方法】 事業譲渡の場合は、初めに年間の価値指標を求める必要があります。 年間の価値指標は、税が引かれる前の利益に支払利息と減価償却費を加算して算出したEBITDAから求めていきます。 営業利益+減価償却費=EBITDA 例えば、営業利益が800万円で減価償却費が150万円であれば、EBITDAは950万円となります。 次にEBITDAを用いて事業価値を示す営業権を求めていきましょう。 EBITDA×3年=営業権 営業権はEBITDAに利益が望める期間や成長率などから算出された一定の年数をかけることで求められます。 薬局M&Aでは3年分の営業権が目安となるので、EBITDAに3年をかけて算定してみましょう。 EBITDAが950万円の場合、営業権は2850万円です。 実際の取引では求めた営業権に固定資産の償却残に薬品在庫の価格、その他資産がプラスされて交渉していきます。 薬品在庫は双方の間で価格が決まるため、実際の取引額は試算したものとは変わってきます。 あくまでも交渉材料としての目安と考えて試算しておきましょう。 【株式譲渡をする場合の算定方法】 株式譲渡では先に企業価値を算出する必要があり、次の計算式で算出可能です。 事業価値+事業外資産=企業価値 事業外資産とは有価証券など事業と関わりのない資産です。 例えば、事業価値が2850万円で事業外資産が1500万円であれば、企業価値は4350万円となります。 ただし、有利子負債がある場合は、企業価値から負債分を減額しなければなりません。 有利子負担が500万円なら株式価値は3850円となるので、この株価を目安にM&Aの交渉が行われます。 【3つの企業価値算定の考え方とメリット・デメリット】 企業価値算定の方法はインカムアプローチ、マーケットアプローチ、コストアプローチの3つに分かれます。 ・インカムアプローチ インカムアプローチは将来見込めるキャッシュフローや利益を用いて企業価値を算出する方法です。 正確な企業価値を求めるためには、密な事業計画に精度の高い市場環境の予測が必要ですが、将来の収益力を見込んだ企業価値を求められるメリットを持ちます。 M&A以外に設備や事業投資、企業経営などの場面でも活用可能です。 主観的な算出になりやすいので、公平な第三者に算出してもらった方が良いでしょう。 存続が前提の算定方法であるため、経営が続かない企業では活用できないので注意してください。 インカムアプローチが該当する算定法はDCF法と配当還元法の2つです。 DCF法はM&A以外にも幅広く使われている算定方法で、将来のフリーキャッシュフローをベースに計算していきます。 一方、配当還元法は中小企業のM&Aもしくは事業継承で使われることが多く、見込める配当金額から算出する方法です。 ・マーケットアプローチ マーケットアプローチは類似企業や取引事例から比較し、市場取引を基に企業価値を求めていく算定方法です。 客観的に算出できるので、交渉の場面でも説得力を与えられることがメリットでしょう。 インカムアプローチが活用できない赤字企業やベンチャー企業も活用できます。 その一方で市場の状況に左右されやすく、将来的な収益力を反映しにくい点がデメリットです。 マーケットアプローチに該当する算定方法は市場株価法、類似会社比準法、類似取引比準法の3つです。 市場株価法は、上場企業が適用できる算定方法で過去1〜3ヶ月間の株価から算出していきます。 類似会社比準法は、事業内容が類似する企業のPERやEBITDAなどの指標を用いて企業価値を求める方法です。 類似取引比準法は過去のM&A事例から算出する方法ですが、M&Aで類似事例を探すことは難しいので、M&Aではあまり使われません。 ・コストアプローチ コストアプローチは貸借対照表に記載された純資産から算出する方法なので、客観性のある企業価値を求められます。 純資産の金額が分かれば簡単に計算できるので、専門的な知識を必要としない点もメリットです。 ただし、将来的な収益力が反映されないので企業価値が低くなりやすいことがデメリットなので、将来性を見込んだM&Aでは不向きです。 その代わり、M&Aを実行できるかどうか判断する際には最適と言えます。 コストアプローチでは薄価純資産価額法、時価純資産額法、再調達原価法、清算価値法の4つが該当します。 薄価純資産価額法は貸借対照表の純資産から求める最も用意な算定方法で、時価純資産額法は時価純資産から業務債務を差し引いて求める方法です。 再調達原価法は、会社が保有する資産と負債の再取得にかかる費用から算出できM&A実行の判断に活用できます。 清算価値法は、全資産の売却から弁済となる負債総額を差し引いた正味売却価格から算出する算定法です。■自身の調剤薬局の企業価値・事業価値評価に悩んでいる時、どうすればいい? 調剤薬局の企業価値と事業価値評価を求めてみたものの、M&Aを成功できるかどうか不安に思っている方は多いでしょう。 企業価値や事業価値はあくまでも目安なので、実際の取引金額は双方の交渉により決まります。 M&Aでは専門的な知識や評価も必要なので、薬局M&Aに特化したアテック・ファーママーケットの利用がおすすめです。 アテックは日本初の薬局M&Aの仲介会社で、それぞれのニーズに叶ったM&Aのサポートを行っています。 薬局の評価や個々に最適な譲渡プランを提案、譲渡先の選出・紹介、交渉とワンストップで対応しています。 大手チェーンから中堅チェーン、グループ会社、薬剤師など幅広い後継候補者が登録されているので、理想的な買い手を見つけ出すことが可能です。 また、マッチングサイトのファーママーケットを通じて譲渡の募集をかけることもできます。 アテックは煩わしい薬局の評価も行ってくれるので、正確な企業価値や事業価値の算出が難しいと悩む方も気軽にM&Aの実行を検討できます。 業界の事情に詳しいところも安心してサービスを利用できる点です。 自分の調剤薬局を売りたいという方は一度アテックに相談して、納得のいく薬局M&Aを実現しましょう。