調剤薬局は、医師が出した処方箋に基づいた医療用医薬品の調剤を行い、販売や受け渡しを行う場所です。薬事法により、所在する都道府県知事の許可を得なければいけません。それだけではなく、健康保険法の封建調剤を行う際にもいくつかの条件をくりあしなければいけないとされています。

そんな調剤薬局は現在、様々な問題を抱えているケースが増えていて、経営を続けることが難しいといった事例も増えているのです。

そこで今回は、調剤薬局が抱えている問題点や調剤薬局M&Aの動向、M&Aのメリットとデメリット、買取の相場、調剤薬局M&Aの事例について解説していきます。調剤薬局のオーナーで経営が苦しいと感じている方は、ぜひ目を通してみてください。

■調剤薬局が抱えている問題点とは?

まずは、調剤薬局が抱えている問題点からみていきましょう。

・調剤報酬に関する問題

調剤報酬は、薬剤師が調剤から投薬を行うまでの業務に対して発生する報酬です。報酬というと多く得られれば良いと考えるかもしれませんが、必ずしもそういうわけではありません。調剤報酬は、内閣が予算編成する際に改訂されます。

したがって、調剤報酬が高くなるかどうかは内閣の考え方に大きく左右されてしまうのです。多くの場合、病院の目の前やすぐ近くにある門前薬局と呼ばれる調剤薬局や薬局グループを運営している企業に対する調剤報酬は低く設定されています。

また、2020年4月からは処方箋の受付回数や集中率によって収益が落ちてしまう可能性もあります。

収益が落ちてしまう可能性があるのは、

・月4,000回超+集中率70%超 ・月2,000回超+集中率85%超 ・月1,800回超+集中率95%超 ・特定の保険医療機関に係る処方箋…月4,000回超

に該当する場合です。

ただし、受付回数が上限を超えたとしても、集中率が条件に達していなければ調剤報酬が低くなることはありません。

出典元:日本薬剤師会「調剤報酬点数表 令和2年4月1日施行」(https://ikuseikai.org/pharmacy/img/point.pdf)

・人材不足に関する問題

調剤薬局における人材不足も大きな問題になっています。学校教育法や薬剤師法が改正されたことによって、2006年から薬学部が6年制になりました。

2年間多く学ぶことでより幅広い知識を身に付けられるようになりましたが、それに伴って薬剤師不足がより顕著になってしまったのです。なぜかというと、新しい人材が社会に出るまでに時間がかかってしまうからです。

また、薬剤師は調剤薬局だけではなく、製薬会社やドラッグストア、病院など様々な場で活躍できる人材となっています。就職するのであれば、大手の製薬会社やドラッグストア、病院の方が将来的にも安泰だと感じる人も多いため、そのような就職先を希望にするというケースも少なくありません。

もちろん、中小の調剤薬局に就職を希望する人はどちらかというと少なく、後継者がいないという状況になるケースも増えています。後継者が見つからず、廃業を余儀なくされるという調剤薬局も増えつつあります。

■調剤薬局M&Aの動向について

調剤薬局の経営は現在、かなり厳しい状況に立たされていると言っても過言ではありません。特に、中小調剤薬局は特に厳しい状況になっているケースが散見されます。そのような状況下で、調剤薬局M&Aを検討する調剤薬局オーナーも増えています。

続いては、調剤薬局M&Aの動向についてみていきましょう。

・M&Aは積極的に行われている

調剤薬局やドラッグストアのM&Aは、かなり積極的に行われています。新型コロナウイルスの影響によって少し足踏み状態になりつつありますが、それでも業界再編のためのM&Aは続いていくのではないかと考えられます。ドラッグストアに関しては、大手のドラッグストアが小規模なドラッグストアを買収したり、大手同士で経営統合が行われたりといったケースが多くなっているのです。

それだけではなく、地域ごとに店舗ネットワークを強化したいという考えから、同じ県内にある調剤薬局やドラッグストアの展開を目指す大手企業が個人経営のドラッグストアを買収するという動きも見られます。

・大手企業が積極的に動いている

調剤薬局M&Aは、大手企業が積極的に動くことで活発化しています。ドラッグストア業界においてトップに位置する大手企業が、調剤薬局やドラッグストアを経営する地方の企業をM&Aによって傘下に収めたというケースもあります。その他にも6つの企業をM&Aで買収し、大きな増益を実現しているのです。

また、ドラッグストアを経営する大手2社が2021年10月に経営統合しました。ドラッグストア業界の激変に対抗するための策だと考えられます。 これを機に、ドラッグストア業界でもさらなる変化が生まれるのではないかと予想できるでしょう。

それだけではなく、各地域の調剤薬局でもM&Aが頻繁に行われています。 調剤薬局のM&Aは、より収益を得られるような立地に進出するために行われるケースが多いです。中には、規模が大きい調剤薬局やドラッグストアが事業承継をしたいと考えている個人経営の調剤薬局に対してアプローチするというケースも増えています。

■調剤薬局M&Aのメリットとデメリット

調剤薬局M&Aを行う場合、メリットとデメリットについて把握しておく必要があります。続いては、どのようなメリット・デメリットがあるのかみていきましょう。

【買い手側のメリット・デメリット】

◎メリット

買い手側のメリットには、店舗の数を拡大しやすくなる、顧客の基盤を獲得できる、共同仕入れができるようになるため薬剤の原価を下げることができる、薬剤師の獲得が容易になる、法改正や診療報酬の改定などに対応しやすくなるといった点が挙げられます。

◎デメリット

買い手側のデメリットには、経営統合が必ずしもうまくいくとは限らない、従業員のモチベーション低下や離職の引き金になってしまう可能性がある、売り手側が持つリスクを引き継いでしまう場合があるといった点が挙げられます。

【売り手側のメリット・デメリット】

◎メリット

売り手側のメリットには、後継者問題を解消できる、事業拡大のチャンスを広げられる、買い手側の企業の傘下に入ることによって事業再生を図れる、会社清算よりも高値で売却できる可能性があるといった点が挙げられます。

◎デメリット

売り手側のデメリットには、労働条件が悪化したり人員整理が行われたりする可能性がある、経営統合で業績がさらに悪化してしまう可能性がある、経営における権限や裁量が制限されてしまうといった点が挙げられます。

■買取の相場はどのくらい?

調剤薬局の買収価格は、店舗数や収益性、立地条件、内装、設備、築年数、人的資源などによって変動します。また、買い手のニーズによっても左右されるため、必ずしもいくらで買収されると確定することは困難です。

したがって、買収価格は企業価値評価に基づいて買い手側と売り手側の交渉によって最終決定されることになります。企業価値評価の方法は、コストアプローチ、インカムアプローチ、マーケットアプローチの3つに分けられています。

ここでは、それぞれの評価方法についてみていくことにしましょう。

・コストアプローチ

コストアプローチは、純資産を基準に評価される方法です。簿価純資産額を企業価値と考える簿価純資産法や時価純資産額を企業価値と考える時価純資産法が含まれます。

・インカムアプローチ

インカムアプローチは、将来的な収益性を考慮して評価される方法です。詳細な事業計画や収益予測、リスク評価に基づいたファイナンス理論によって価値を割り出すDCF法が含まれます。

・マーケットアプローチ

マーケットアプローチは、市場取引価格を基準に評価される方法です。株式時価総額によって評価される市場価額法や類似している上場企業の株価を元にして非上場企業を評価する類似会社比準法が含まれます。

基本的には、インカムアプローチのDCF法もしくはDCF法とマーケットアプローチを組み合わせて企業価値評価を行います。特に、薬局チェーンのように規模が大きい企業の買収を検討する際に、そのような方法が取られるケースが多いです。

それに対して、小規模のM&Aはそれよりも簡単な方法で企業価値評価が行われるというケースが多く見受けられます。その中でも代表的なのは、時価純資産額と直近の利益の数年分を合算して企業価値としてみなすという方法です。

直近の利益の数年分は、将来的な収益力を評価した部分になり、営業権に相当します。この方法では、コストアプローチがベースになっていて、過去の利益を元にした簡単なインカムアプローチによる収益性評価も加味されます。そしてそれを企業価値算定に活用するのです。

直近の利益の数年分は、3年から5年分が相場となっています。

■2021年版 調剤薬局M&Aの事例

調剤薬局M&Aは、近年も盛んに行われています。調剤薬局M&Aは、大手薬局やドラッグストアチェーンによって行われるM&A、中小規模の薬局やドラッグストアによって行われるM&A、ファンドによって行われるM&Aの3種類に分けることができます。ここでは、2020年以降に行われた調剤薬局M&Aの事例について種類ごとにご紹介します。

【大手薬局やドラッグストアチェーンによって行われるM&A】

・老舗薬局を薬局のグループ会社に属する企業が子会社化した事例

この事例では、M&Aによって事業拡大を図ることが目的となっています。事業拡大を図ることで、かかりつけ薬局として地域の医療に貢献できるようにすることが大きな目的です。

2021年1月にグループ会社に属する企業が老舗薬局の株式を100%取得し、子会社化することに成功しました。取得対価については公表されていません。

・地方で薬局を運営する企業と全国に薬局とドラッグストアを展開する企業が業務資本提携した事例

この事例では、運営に関するノウハウや薬機法改正への柔軟な対応、災害時の協力支援などを目的とした業務資本提携のためのM&Aが行われました。かかりつけ薬局としての役割が重要視されている昨今、地域とのつながりはとても重要だと考えられています。そのため、地方で薬局を運営する企業が持つノウハウを全国に薬局とドラッグストアを展開する企業が共有することで、より成長性を高められるのではないかと考えられるのです。

業務提携を強化するため、2021年3月に全国に薬局とドラッグストアを展開する企業が地方で薬局を運営する企業が発行する新株を引き受けました。そして、発行済み株式のうち20%を有する株主になりました。出資額などの詳細は公表されていません。

【中小規模の薬局やドラッグストアによって行われるM&A】

・地方で小規模薬局の運営を行う企業を中部地方でドラッグストアや薬局を運営する企業が子会社化した事例

中部地方でドラッグストアや薬局を運営する企業は、ドミナント出店を行うことでヘルスケアネットワークを構築するという取り組みを行っています。その事業の一環として、地方で小規模薬局の運営を行う企業の子会社化をしたのです。

2020年10月に地方で小規模薬局の運営を行う企業の発行済株式を中部地方でドラッグストアや薬局を運営する企業がの100%を取得し、子会社化に成功した事例です。取得対価額は公表されていません。

【ファンドによって行われるM&A】

・ファンドの出資で事業承継投資事業を展開する事例

ファンドによって調剤薬局M&Aが行われるケースもあります。2021年4月のM&Aでは、12社が出資してファンドが設立され、総額50億円の投資が行われる予定となっています。地方にある調剤薬局の事業承継を推進することによる地方創生の実現が目的です。

■調剤薬局M&Aならアテックに!

近年、調剤薬局M&Aは積極的に行われています。M&Aを行うためには、専門的な知識が必要になるため、個人で行うことはとても難しいです。そのような時に頼っていただきたいのがアテックです。

アテックは、調剤薬局M&Aを専門とする会社として1991年に創業しました。調剤薬局の経営者になりたいと考えている人の夢を叶えるためのサポートを行っているのです。

そんなアテックは、ファーママーケットというマッチングサイトの運営も行っています。ファーママーケットでは、後継者を探している調剤薬局の経営者と独立したいと思っている薬剤師や調剤薬局の買収を考えている経営者のマッチングをしています。双方の条件に合致する登録者をマッチングできるため、後継者探しにも有効な手段だと言えるのです。

新型コロナウイルスの影響によって、経営が厳しくなっている調剤薬局も少なくありません。そのような状況下で、M&Aという方法を取り入れようとするケースも増えています。もしも、M&Aを検討しているなら、お気軽にアテックまでご相談ください。
メールマガジンの登録