そこで今回は、調剤薬局の新規開業をする際に知っておきたいポイントについて解説していきます。これから新規開業を目指している人は、ぜひ目を通してみてください。
目次
■調剤薬局を新規開業する際の流れ
はじめに、調剤薬局を新規開業する際の流れから見ていきましょう。①薬局開設許可申請書などを提出する
調剤薬局を開業しようと考えたら、まずは薬局開設許可申請書などを提出しなければいけません。薬局の平面図や求積表なども合わせて提出しなければならないので、忘れずに準備しましょう。当然ですが、提出する資料は全て正確な内容でなければいけないため、内装工事を行った担当者に依頼して作成してもらうのがおすすめです。
薬局開設許可と並行して、麻薬小売業の申請も行うケースが多いです。申請先は保健所で麻薬に関する許認可は地域体制加算の指定要件にもなっているので忘れないようにしましょう。
②保健所の検査を受ける
書類を提出すると、保健所の検査が行われます。衛生面などに問題がないかチェックするためです。検査が入る時点で、内装工事が終了していなければいけません。調剤に使用する機器も納品されている必要があります。
検査の日程は、管轄の保健所に在籍する薬事担当者のスケジュールと調整して決まります。
③厚生局に開設届や保険指定申請書を提出する
検査を終えて薬局開設許可証が届いたら、保険薬局指定のために必要となる開設届や保険指定申請書を厚生局に提出します。許可が下りれば、一般薬局の営業が可能となります。
④厚生局指定の審査会を受ける
厚生局指定の審査会を受けてクリアできれば、保険薬局としてオープンできるようになります。
⑤保険指定を受けて調剤薬局をオープンする
保険指定は毎月1日に行われるため、月の途中で調剤薬局をオープンすることは基本的にありません。保険指定を受けていないので、それまでは看板に「保険調剤」のように保険指定を受けている旨を記載することもできないので注意が必要です。
調剤薬局の開業は、このような流れで行われます。しかし、地域の特性などによって開業までの期間に差が出る場合もあります。審査が厳しい地域ではなかなか許認可が下りずに、開業までこぎつけないケースもあるため情報収集を怠らないようにしましょう。
■新規開業する際に知っておきたい3つの要素
調剤薬局を新規開業する場合、知っておきたい3つの要素があります。続いては、その3つの要素とは一体何なのかみていきましょう。・医師に関する情報を集める
初めて調剤薬局を開業するなら、クリニックなどの開業計画を立てている医師に関する情報を集める必要があります。しかし、公になっていない情報なので地道に人脈などを駆使して探すほかありません。
病院の薬剤師から独立する場合は、同じ病院に勤務している医師の開業情報をすぐにキャッチできるようなアンテナを立てておくのがおすすめです。医師の開業についていければ、開業先に顧客を持ち込めるというメリットもあるためです。
開業情報は、病院を出入りしている卸業者から得られる場合もあります。病院と取引している卸業者は、関係性が深い医師の開業情報をすでに掴んでいる可能性が高いです。業者の営業活動にも大きな影響を及ぼすからです。
調剤薬局を新規開業した薬剤師の中には、卸業者から情報を得て医師にアプローチし、門前薬局の開業にこぎつけたというケースもあります。医師が門前薬局を開業できる人材を探している場合もあるので、双方のニーズが合致すればとんとん拍子に話が進む可能性もあります。
・資金を調達する
調剤薬局を新規開業するためには、資金も必要となります。資金について考える場合、処方箋の枚数をベースにして売り上げの予測を立てます。そこから、開業に最低限必要となる資金を計算し、調達するのです。
医師が見つかって開業できるようになるのがゴールではありません。開業してからきちんと経営できるかが重要です。物件や設備、オープニングスタッフを準備したら、どのくらいの期間で初期投資を回収できるか考えてみましょう。
経営を軌道に乗せるための目標を設定します。その時に、処方箋の枚数だけではなく処方箋の単価がどのくらいなのか予想するのも重要です。応需科目や顧客の年齢、薬局の立地にも左右されます。また、医師の評判によって薬局の売り上げが大幅に変わるケースもあるので、初期投資分を調達できれば良いというわけではなく、将来的なビジョンをしっかりと見据えることがポイントになります。
・人材を採用する
調剤薬局のスタッフとして一緒に作り上げていくスタッフの存在も重要です。最初のうちはオーナーが1人で切り盛りするケースもありますが、処方箋の枚数が増えていくと手に負えなくなります。負担を軽減するためには、オーナーの右腕となって活躍してくれるような人材を採用する必要があります。
オープニングスタッフとして募集をかけると応募してくれる薬剤師も多いです。オープニングスタッフは、薬剤師として成長しやすい、最新の設備を使って仕事ができる、複雑な人間関係に悩まずに済むといったメリットがあります。より働きやすい環境を求めてオープニングスタッフの求人に応募してくれる薬剤師とともに、理想的な調剤薬局を作っていくのはやりがいにつながります。
■開業資金を調達する方法
調剤薬局を開業するには資金の調達が必要です。資金を調達する方法について、より詳しくみていきましょう。・日本政策金融公庫を利用する
日本政策金融公庫では、新創業融資制度という制度を用意しています。この制度は、新しく事業をスタートする人向けの融資です。銀行よりも低い金利で融資が受けられるので、申し込んでみる価値は大きいと言えます。
ただし、新規事業を始めるからと言って誰でも利用できるわけではありません。開業するための自己資金がある程度必要です。創業資金総額の1/10以上の自己資金が必要と言われているのですが、1/3ほど自己資金がある方が望ましいとされています。
事業計画書の内容も細かくチェックされるため、抜かりなく作成しなければいけません。不適切な内容や不十分な部分があると審査に落ちてしまう可能性が高まります。
したがって、日本政策金融公庫の制度は利用するハードルが低いとは言えません。申し込むなら、しっかりと準備をしてからにすると良いでしょう。
・ノンバンクを利用する
ノンバンクを利用する方法もあります。銀行などからお金を借りようと思っても借りられない場合があります。そのような時は、ノンバンクの利用を検討してみてください。
ノンバンクというのは、ローンサービス会社などから借りることを意味します。金利が高い印象を持つかもしれませんが、不動産や調剤報酬などを担保にする商品を選択すれば、無担保ローンよりも金利を抑えられる場合があります。
ただし、ノンバンクを利用するなら繰り上げ返済すると違約金が発生したり、事務手数料などの諸経費が契約時に上乗せされたりする点に注意が必要です。
■新規開業で注意すべきポイント
調剤薬局を新規開業するなら、注意すべきポイントについても把握しておく必要があります。では、どのようなポイントに注意すれば良いのかみていきましょう。・薬局設置の基準について
薬局を設置するには、調整区域への設置は医療機関と違ってできない、顧客が利用する店舗の入り口が行動に面している、ビルの2階や3階に病院がある場合は1回の薬局の入り口が行動に出てから入れるような設計になっているといった基準をクリアしなければいけません。開業を考えた時に厚生局や保健所にあらかじめ相談しておけば、基準を満たさないといった事態には基本的にならないので問題はないでしょう。
・薬局運営の基準について
薬局を運営するには、薬局と病院の間に経済的な関係がない、店舗を立てる場所が病院関係者が有する土地ではない、テナントである場合も病院関係者が有するものではない、薬局の役員などに病院の関係者が含まれていない、処方箋の応需におけるリベートなど病院との経済的な関係がないといった基準をクリアする必要があります。開設する予定場所の管轄となる保健所に足を運び、あらかじめどのような基準があるのか確認しておくと安心です。
■調剤薬局を新規開業するメリット・デメリット
調剤薬局を新規開業するなら、どのようなメリットとデメリットがあるのかも把握しておいて損はありません。では最後に、どのようなメリット・デメリットがあるのか見ていきましょう。【メリット】
・働き方の調節ができる
独立開業する最も大きなメリットは、働き方の調節ができることです。働き方を柔軟に変えられるため、ライフスタイルの変化にも適応しやすくなります。個人経営で他に薬剤師を雇わないなら、利益は全てあなたのものになるので、他で勤務していた時よりもがっつりと稼げるようになります。
仕事以外に力を入れたいものがある場合も、働き方を調節できるメリットは大きいです。薬剤師を雇うことで自分自身の負担を軽減し、趣味などに力を入れるという働き方をするケースもあります。
自分自身の裁量で働き方を自由に調節できるのは、独立開業した薬剤師だからこそ得られるメリットです。
・自分だけのオリジナルな薬局を作り出せる
独立すると理想を形にしやすくなるため、自分だけのオリジナルな薬局を作り出せます。薬局には見えないようなオシャレな建物にしたり、子どもやお年寄りなど特定の層をターゲットにしたデザインや設備を取り入れたりできるのは、独立開業した場合ならではです。
他の調剤薬局と差別化して顧客の心を掴めれば、売り上げも右肩上がりになっていくと予想できます。
・収入を大幅にアップできる
調剤薬局を新規開業して独立し、経営が軌道に乗れば収入を大幅にアップできる可能性もあります。経営の基盤が確立され軌道に乗った場合の平均年収は1,000万円と言われています。独立して年収アップした事例も多く見られるため、将来的には独立したいと考える薬剤師が多く見られるのです。
【デメリット】
・責任が重くなる
独立して調剤薬局を新規開業すると、あなた自身がオーナーになります。万が一、何らかのトラブルが起こった場合は全て責任を負わなければいけません。ミスをして顧客の体調に異変が生じたら、訴訟に発展する可能性もないとは言い切れません。
また、薬剤師を雇うなら雇用責任者としての責任も負います。従業員同士でトラブルが起こらないように配慮する必要があります。
・リスクを覚悟しなければいけない
開業するなら、リスクについても覚悟が必要です。新規開業でも事業承継でも、コストはかかります。銀行から融資を受けてスタートしますが、上手くいかなければ大きな借金を背負うことになります。
開業したから安泰ではなく、経営が上手くいかなければ閉業を選択しなければいけない可能性もあるでしょう。そのリスクを背負う覚悟があれば、乗り越えていけるのではないかと考えられます。
・人員不足の可能性がある
開業したばかりならオーナーのみでも回せるかもしれませんが、顧客が増えていくと1人で回すのは負担になっていきます。しかし、採用活動をスタートしてもすぐに望んでいる人材が見つかるとは限りません。人材が見つからなければ、オーナー自身がプライベートの時間を削ってまで仕事をしなければならず、心身ともに疲弊する可能性も考えられます。
調剤薬局の新規開業を考えているなら、このようなメリット・デメリットについても把握しておく必要があります。開業前から把握していれば、納得した上でトラブルなどに対処できるでしょう。