調剤薬局は仕入れ値と売り上げ値の差益を多く望めず、経営が難しい業種の一つとして知られています。経営を続けていくのが難しくなったり、事業継承をする後継者が不足していたりと、業界が抱えている課題も多いです。

近年、市場環境が厳しさを増す中、M&Aを行う調剤薬局が増加傾向にあります。M&Aには様々なメリットがあり、売却したことによって以前よりも経営が安定したという実績もあるほどです。

そこで今回は、調剤薬局のM&Aの進め方や流れ、必要な手続きについてご紹介します。現在経営している調剤薬局の売却を検討している人は、ぜひこの記事を参考にしてみてください。

■調剤薬局のM&Aとは

まず初めに、調剤薬局とM&Aはそれぞれどのようなものなのかについてご紹介します。

・調剤薬局

私たちの身近にあるため、見かけたことがある人や、普段から利用している人もいるのではないでしょうか?医療機関に在籍している医師の診断を経て、処方箋にて指示された薬を調剤し、患者一人ひとりの症状に合った薬を渡す医療提供施設のことを指します。

あらかじめ患者のカルテを作成しておくことで、他の医療機関や薬局との重複投与がないか、飲み合わせの悪い薬はないか、症状に対して適切な薬であるかなどを確認できます。 また、処方された薬を安心して服用できるように、患者の相談等に応じるのも調剤薬局で働く薬剤師の仕事です。ドラッグストアや薬店で販売されている市販薬も症状を緩和したり、治したりする効果はありますが、調剤薬局で処方される薬は患者の症状に合わせて調合されたものであるため、より確かな効果を得られます。

しかし、その反面副作用もあるため、処方箋の指示に従って適切な量、タイミングで服用しなければいけません。人々の健康をサポートするために欠かせない役割を担っている仕事です。

・M&A

M&Aとは、「Merger(合併)」&「Acquisitions(買収)」の略称で、会社または経営権を取得することを意味します。株式譲渡や事業譲渡、分割、合併など、様々な手法で取引されており、近年市場情勢が悪化している調剤薬局でも用いられている取引です。M&Aを行う理由は会社を買収して事業の規模を拡大させるだけではありません。

調剤薬局では経営者の高齢化が大きな課題となっており、後継者問題による廃業を阻止する目的でも行われています。M&Aには売り手側にも買い手側にも多くのメリットがあるため、今様々な業界から注目を集めています。

■譲渡スキームの選択肢

経営の立て直しや後継者問題の解決、大手の傘下入りによる事業拡大など、様々な理由により薬局の取引を行う経営者が増えています。調剤薬局のM&Aでは、譲渡スキームとして「株式譲渡」「事業譲渡」の2つの選択肢があります。ここでは、双方の特徴やメリット・デメリットについてみていきましょう。

・株式譲渡

会社の株式を売買する取引であり、株式の過半数を獲得することによって、買い手側は経営権を得られます。株式を買収した後、子会社化するのが一般的です。株式譲渡は、買い手と売り手が併存することとなるため、売り手側の従業員の独立性を維持し、自主的な経営を維持しやすくなります。

・事業譲渡

売り手側が所有している事業の一部または全てを第三者に譲渡する手続きを指します。小規模で経営している調剤薬局のM&Aにおいて、事業譲渡は株式譲渡よりも手続きが簡単であるため、一般的には事業譲渡を選択する薬局が多いです。

■調剤薬局M&Aの流れや必要な手続き

調剤薬局のM&Aは他業種と大きな違いはありません。準備不足や覚悟がないまま始めてしまうと上手くいかないため、必要な手続きを行う前にまず、M&Aの目的を明確にしておきましょう。

近年、増加している調剤薬局のM&Aですが、一体何のために実施するかはそれぞれの薬局が抱えている問題によって異なります。なぜM&Aを行いたいのか、どのような問題を解決できるのかなど、目的が明確であれば手続きもスムーズに進められます。その後は、以下でご紹介する流れに沿って手続きを行いましょう。

・M&Aの意思決定

まずは、退く経営者が事業継承をする意思を固める必要があります。自分の子どもを後継者として退くのか、第三者であるM&Aに事業継承をするのかはっきりさせておかなければいつまで経っても事態は動き出しません。M&Aに対して事業継承する意思を固めたのであれば、どのような会社にいくら譲渡するのか検討しましょう。

・専門家へ相談

M&Aを行う際には、最新の動向や法律の知識、財務・税務といった幅広い知識が求められます。実際には、アドバイザリー契約やデュー・ディリジェンス、買い手側のマーケティングなど、膨大な作業が発生します。

自ら動いて買い手を探すという手もありますが、手続きが複雑で専門性が非常に高いため、経営者が一人で行うのは困難です。そのため、M&A仲介会社やエージェントなどの専門家へ相談するのがおすすめです。

M&Aを行う際、買い手側に組織情報や財務状況など、薬局の重要な情報を開示することになります。情報漏洩や悪用を防ぐためにも、仲介業者またはエージェントとの間で「秘密保持契約」を締結しなければいけません。

・アドバイザリー契約の締結

具体的にM&Aを進めていく場合、アドバイザリー契約の締結を行わなければいけません。アドバイザリー契約とは売り手と仲介会社またはエージェントが結ぶ契約であり、大きく分けると専任契約と非専任契約の2つがあります。

専任契約では仲介会社を1社に限定するため、情報漏洩のリスクを軽減できる他、優先度の高い顧客になれることが大きなメリットです。一方で、非専任契約では複数の業者に委託することになるため、ミスマッチを未然に防げたり、より良い条件を提示する買い手を見つけられたりします。

・デュー・ディリジェンス

買い手が決まれば、実際にM&Aを実施しても問題がないかチェックするために買い手側は「デュー・ディリジェンス」を行います。これは買収監査として行われるものであり、弁護士または税理士が店舗の監査に取り組むことによって、可能な限りリスクを防ぐようにすることを目的としています。

M&Aでは買い手側が高額な投資金を支払うため、それを回収できるかどうか買収対象となる薬局が抱えるリスクを徹底的に調査することが非常に重要です。調査の対象となるのは、処方箋の状況や在籍している従業員、処方元医療機関、事業運営などです。また、仮に買収金額が小さかったとしてもデュー・ディリジェンスを省略することは不可能です。

・クロージング

デュー・ディリジェンスを経て問題がないと判断され、双方が最終的な合意に至ると、「最終譲渡契約書」を締結します。その後、選択した譲渡スキームに従ってクロージングを行わなければいけません。

これによりM&Aの契約は完結し、手続きの処理に移ります。具体的には、株券の引き渡しやその対価の支払い、役員の改選が必要な手続きとなります。

・情報公開、公表

最終譲渡契約を結ぶまでは基本的に情報を公表することはありませんが、全ての手続きを済ませM&Aが完了したら、従業員や取引先に対して順次情報の公表を行います。従業員の離職や取引先の撤退を防ぐためにも、M&A完了後に情報公開・公表をするのがおすすめです。

■M&Aを成功させるポイントとは

ここまでM&Aを実施するための流れや進め方、手続きについてご紹介しましたが、実際に薬局を売却、分割、合併するにあたり、M&Aを成功させるポイントとは一体何でしょうか?ここでは、成功の鍵となる重要なポイントをご紹介します。

・経営管理体制を整備しておくこと

調剤薬局のM&Aにおいて非常に重要になるのは、経営管理体制を整備しておくことです。人事労務管理が重要であり、残業などによる未払い金がある場合は、あらかじめ問題を解決しておくようにしましょう。多く見受けられる問題として労務管理の不備が挙げられます。経営管理体制に不備がないよう十分注意してください。

・医薬品在庫の棚卸し

薬局業界において度々話題に挙がるのが、在庫管理の実地棚卸しの重要性です。現在、自身が経営している薬局にどのような薬品がいくつあるか把握しているという経営者は少なく、ずさんな管理体制になっていることもしばしばあります。

一般的に医薬品在庫の棚卸しは年末に行われますが、実際にはそれができていない調剤薬局も多いのです。在庫の棚卸しは譲渡価格に直接的に影響するため、日頃から管理を徹底しておく必要があります。

医薬品は譲渡対象とされる資産の中でかなり大きな割合を占めています。場合によっては、譲渡価格が数百万円単位で減額されることもあるようなので注意してください。

・M&Aを打ち明ける

薬局で働いている従業員に対し、M&Aについて話さなければいけない時がいつか必ず訪れます。経営業務に携わっていないからと言って意見を求める必要はないと思っていても、打ち明けるタイミングが遅ければ従業員たちは不信感を抱いてしまいます。

実施する場合、自分たちが勤めていた薬局を買収されることになるため、反対する従業員がいないとは言い切れません。中堅社員や役員が不満を募らせて転職してしまう可能性もあります。そうなれば経営の立て直しはおろか、M&A実施計画そのものが白紙になってしまうリスクがあるため、打ち明けるタイミングは非常に重要です。

従業員の離職を防ぐためにも、主要となっている従業員や長年勤めている従業員には、あらかじめM&Aの実施について相談しておくのがおすすめです。なるべく早い段階で打ち明けると共に、M&Aを行うことで得られるメリットなどについても詳しく説明しておきましょう。

■M&Aを実施する際の注意点

調剤薬局のM&Aはメリットが多く、実際に実施する経営者も増えていますが、計画的に行っていないと後にトラブルになってしまうことがあります。経営の立て直しや事業継承者の確保などに対し非常に有効的な取引であるため、上手く利用するためにも注意すべき点を押さえておきましょう。

・従業員の雇用状態

薬局を売却する場合、働いている従業員の雇用状態をしっかり整えておく必要があります。M&Aを成立させるためには様々な手続きを行わなければいけないため、忙しいかもしれませんが、雇用状態の管理を怠っていると従業員の不満が募ります。

得られる給与などの条件は良くなるかもしれませんが、売却後、働き方や人間関係が原因となり離職してしまう人も少なくありません。万が一、対応を怠ると、社内分裂が起こったり、業績が著しく低下したりといった問題が発生してしまいます。M&A完了後、従業員全員が納得できる環境を整えておくことが重要です。

・計画を立てて行う

M&Aを成功させるためにも、あらかじめ綿密な計画を立てておきましょう。従業員の今後に関わることであるため、M&Aを行う場合はしっかり計画を立てておかなければいけません。経営者という立場に立っているのであれば、市場の動向をチェックしながら計画を進めてみてください。また、クロージングしたら終わりではなく、その後の組織づくりにも力を注ぐ必要があります。

・マイナスな情報も隠さない

評価額を上げたいと考えた場合、簿外債務や組織情報、労務問題などにマイナスな問題があったとしても、包み隠さず情報を公表するのが望ましいです。最悪の場合、M&A契約が締結された後に情報を隠していたことが発覚すると、訴訟問題につながることもあるため十分に注意しなければいけません。

また、隠していたとしてもデュー・ディリジェンスを行うことによって明らかになる可能性があります。あらかじめマイナスになる問題を解決しておくと買い手が見つかりやすくなります。

■調剤薬局のM&Aはアテックにご相談ください

今回は、調剤薬局のM&Aの進め方や流れ、必要な手続きについてご紹介しました。経営者の高齢化、薬剤師不足、業績悪化などを背景に、調剤薬局のM&Aは飛躍的に増加しています。しかし、M&Aは専門性が高く、個人で全ての作業を行うのは難しいと考えられるため、仲介会社の利用をおすすめします。

アテックでは、それぞれの希望に沿った提案が出来るような体制を整えています。調剤薬局の売却を検討しているという人は、ぜひアテックまで気軽にご相談ください。これまでに何件ものマッチングを成立させてきた実績を活かし、それぞれの薬局が抱えている課題を解決できるようなお手伝いをさせていただきます。
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