薬剤師として働くなかで、いつかは独立し、自分で調剤薬局を開業したいと考えている人もいるでしょう。しかし、開業において必要な事前準備や対策を正確に把握している人は多くありません。

調剤薬局の開業には様々なメリットがある一方でデメリットやリスクも存在します。そこで、ここでは調剤薬局を開業するリスクや注意点について紹介していきます。

調剤薬局を開業するメリット

調剤薬局の開業においていくつかあるメリットの中でも、自分で仕事の目標や方針を決められる点は最大のメリットと言えるでしょう。雇用されていた時は、経営者の方針に従い、何かと我慢することも少なくありません。

しかし、自分が経営者となれば、今までできなかったやりたいことを、誰に気兼ねする必要もなく、自らの裁量で進められます。気にしなくてはならない上司もいないため、人間関係のストレスも軽減できます。

店内の内装やインテリアから立地などの環境面まで、自分の希望を叶えられます。どの病院やクリニックの近くで開業するかも選択できるので、自分の理想の薬局を作ることが可能です。

また、会社員では年収アップにも限りがありますが、開業すれば自身の経営力によっては大幅な収入増も期待できます。定年退職や転勤などの心配からも解放され、自分の望む働き方を実現できるのも、開業したからこそ得られるのがメリットです。

調剤薬局を開業するデメリット

様々なメリットのある調剤薬局の開業ですが、もちろんデメリットも存在します。調剤薬局を開業すれば、経営のスキルが求められます。薬剤師としての経験や能力があっても、薬局経営に関する知識が全くないままでは、失敗する可能性があります。

必ず患者が来るという保証はないため、収入がゼロになることもあるのです。かといって自分だけで薬局を運営するのは負担も大きく、人手不足になることが考えられます。そのため、薬剤師や受付の人を雇うことがほとんどですが、希望通りの人材が見つかるとは限りません。

見つかったとしても、急な休みで人手が足りない場合にはサポートに回る必要が出てくる可能性が高く、そうなった場合にはプライベートの時間の確保が難しいでしょう。

さらに、自分の他にも従業員を雇うなら、その方たちの生活も背負う必要があります。責任が重くのしかかるうえ、雇用されていた時には当たり前にあった有給休暇や社会保険、退職金なども無くなります。経営が安定すれば問題ありませんが、必ずしも安定するとは限らないという点を理解して対策することが重要です。

調剤薬局の開業では、事業継承と新規開業の方法があります。事業継承は親などから事業を譲り受けることの他、高齢になった経営者が次世代に経営を譲渡するケースもあります。

しかし、事業継承にしろ新規開業にしろ、多くの費用がかかるのは避けられません。基本的に開業資金は銀行から融資を受けることが多く、経営に失敗すれば借金だけが残る恐れがあります。そうならないためにも、薬局運営におけるリスクをしっかり把握し、きちんと対策を取ることが極めて重要となります。

調剤薬局の開業にはリスクもある

調剤薬局に限らず、どのような業種でも経営にはリスクがあります。開業するにあたっては、起こり得るリスクを把握し、最悪の事態にも対応できるように備えておくことが重要です。ここでは、調剤薬局の経営におけるリスクについて、紹介します。

・マネジメントリスク 調剤薬局は、病院やクリニックのすぐ近くにある門前薬局が最も主流です。目の前の病院やクリニックの処方箋を取り扱うことで、そのまま患者が薬局に訪れます。繁盛している病院やクリニックの門前薬局となれば安定した収益を見込めます。

しかし、医者が亡くなり病院が閉鎖したり、人気のある勤務医が独立したことで患者が激減したりするリスクがあります。また、競合薬局が近くに開業したり、予測を外し薬の在庫が足りなくなったりといったリスクも起こりえます。

調剤薬局を経営するにあたっては、このような様々なリスクを把握し、もしもの際に備えておくことが重要です。

・財務リスク 経営には資金繰りや納税など財務リスクがつきものですが、調剤薬局では薬の不動在庫が影響を与えることも少なくなりません。不動在庫とは、様々な理由により保有しているがほとんど出ることがないものです。消費されず使用期限を迎えれば、廃棄しなくてはならず、収益を圧迫します。

薬剤師は、調剤の求めがあれば正当な理由なく拒否できないと薬剤師上で定められています。そのため、在庫がない薬が処方された場合でもその薬を提供する義務があるのです。原則として薬品は箱や包装単位での購入のため、必要な分だけ購入という訳にはいきません。

そのため、残った医薬品は使用期限が過ぎれば廃棄しなければいけませんが、一般ごみとして処分できず業者や依頼するため、廃棄費用も掛かります。このような医薬品の廃棄ロスは、資金繰りにも大きな影響を及ぼします。

・オペレーションリスク 経営者となり、従業員を雇用した場合様々なリスクが想定されますが、オペレーションリスクもその一つです。オペレーションリスクとは、日常の業務を進行している際に起こるリスクの総称であり、調剤ミスや遺物混入もこれに当たります。

いくら自分ではないといっても、従業員が起こしたものは経営者の管理責任も問われます。そのため、従業員の調剤ミスなどの過失により損害賠償の請求をはじめ、従業員による異物混入や患者情報の持ち出しや流出、極めつけは故意の不良調剤などのリスクが発生した場合に備えておくことが重要です。

・施設リスク 近年自然災害による被害も増えています。火事だけでなく地震や水害などによる建物への被害に備えることが大切です。また、自然災害以外にも、盗難や破壊などの犯罪によって被害を受けるケースや、施設の不備によってお客様の怪我を誘発した場合には、損害賠償が発生するリスクがあります。

建物への被害や損害賠償は金額も大きいことが多く、経営を圧迫することになりかねないため、保険に加入したり、損害賠償に発展するような危険を排除したりとリスクを軽減することが重要です。

一般的な企業と同様のリスクもあれば、調剤薬局ならではのリスクもあります。どちらにしても、失敗した時のリスクは大きく、重い責任がのしかかります。開業する際には、これらの起こり得るリスクをきちんと把握し、対策を取ることが重要です。

調剤薬局を開業すると収入はどうなる?

様々なリスクが想定される調剤薬局の経営ですが、その分成功すれば得られる報酬も大きいです。薬剤師として雇用されている場合とどのくらいの違いがあるのでしょうか。

薬局の経営者の年収は1,000万円以上と言われており、成功すれば1,500万円から場合によっては1,800万円以上の年収も見込めます。調剤薬局に雇用されている場合の一般的な薬剤師の年収は450万円~700万円、製薬会社などに勤務している場合は650万円~1,000万円と言われています。

他にもドラッグストアは450~750万円、大学病院や国公立病院などに勤務している薬剤師は400~650万円ですが平均年収と言われており、雇用されている場合に比べて、自ら調剤薬局を経営しているほうが年収が高いことがわかります。

開業までにそれなりに資金が必要であり、店舗を借りるにも従業員を雇うにも費用が掛かりますが、経営が軌道に乗れば2倍以上稼ぐことも可能です。家賃や水道光熱費などの必要経費を除いても、雇用されている時に比べて高い年収が期待できます。

調剤薬局を開業するために必要な資金とは

高い収入が期待できる調剤薬局の経営ですが、開業にはお金がかかるのも事実です。開業に必要な資金の相場は、立地など様々な状況によって変わりますが、一般的には1,500万円前後と言われています。調剤薬局の開業には、いったいどのような費用が必要なのか、見ていきましょう。

・運転資金 運転資金は、事業を行うために必要な資金です。経営するための薬の仕入れをはじめ、従業員の給与なども運転資金に含まれます。運転資金が足りなくなれば、支払いができず仕入れができない、店舗を維持できないなどの問題が生じるため、開業するにあたり非常に重要です。

この運転資金の中で最も比率が大きいのが人件費です。人件費には従業員の給与の他、社会保険料や雇用保険料など、経営者が負担する費用も含まれます。従業員を何人雇用するかにもよりますが、経営状況に大きく影響することは間違いありません。

また、店舗を維持するための家賃をはじめ、水道光熱費や通信費などの必要経費、場合によっては広告費や接待交際費も発生します。運転資金にはある程度余裕を持っておくことが大切です。

・店舗の保証金 調剤薬局を開業し、店舗を構えるには店舗の保証金が必要になります。この場合の保証金とは、家賃を滞納した場合の担保や退去する際の原状回復費用のことがほとんどです。

店舗は賃貸のことが多いため、開業するには店舗の保証金を用意する必要があります。金額は店舗が都市部なのか地方なのか、立地や広さによって異なりますが、一般的な住居などに比べて高いことがほとんどです。

また、調剤薬局の広さは厚労省によって19.8平米と定められています。約6坪程度あれば開業可能ですが、この広さでは調剤薬局の運営は難しいのが現実です。どの程度の規模の薬局運営を考えているのか、雇用する従業員の人数や見込み患者数から必要な広さを想定し確保することが大切です。

・内装工事にかかる費用 店舗が決まった後は、内装工事を行います。賃貸の店舗物件には、居抜きとスケルトンの2種類あります。居抜きは前借主が使っていた内装や設備をそのまま借りられる物件のことで、スケルトンは、内装設備が全くない柱や床のみの物件です。

飲食店などは居抜き物件を選ぶことで初期費用を抑えられますが、薬局の場合前の借主も薬局だったということはほとんどありません。そのため、スケルトンの物件を薬局向けに改修するのが一般的です。どの程度の規模で改修するかにもよりますが、内装工事の相場は500万円~1,000万円と言われています。

・設備費用 店内の内装を終えたら、次は設備費用が掛かります。薬局を運営するには、レセプトコンピューターやレジの他、薬剤を保管する保冷庫などの設備や作業代、コピー機に電話やFAXなどが必要です。

設備費用にどこまでお金をかけるかは経営者によりますが、作業効率を重視するならある程度の投資が必要です。薬袋やお薬手帳など患者用の消耗品をはじめ、滞りなく運営するには何が必要なのか、しっかりと検討することが重要です。設備費用の相場は、100万円~200万円程度見積もっておくと安心です。

・医薬品の仕入れ費用 店舗の準備を終えたら、最後は必要な医薬品の購入です。薬局では、ある程度医薬品をストックしておかなければなりません。最近ではジェネリック医薬品の種類も増えていますが、どちらを選ぶか患者に委ねられています。

どちらを選んでも良いように、様々な医薬品を常備しておく必要があります。どのような医薬品を準備するかは、近くの病院の診療科目や立地などによっても異なりますが、200万円~500万円程度見積もっておくと良いでしょう。

調剤薬局を開業ならアテックにご相談ください

今回は、調剤薬局を開業するリスクについてご紹介しました。調剤薬局の経営は、雇用されている場合に比べて年収も高く、また自分の裁量で業務を決定することが可能です。仕事の方針や目標を自分で決めることができるため、さらにやりがいを感じられるでしょう。

一方で、自分で調剤薬局を開業し運営するということは、様々なリスクがつきまといます。万が一の事態に備えて、事前準備と対策をしておくことが重要です。しかし、薬剤師としての経験や知識があっても、一から調剤薬局を開業し運営することは一筋縄ではいきません。

調剤薬局を開業したいけど迷われている方は、アテックまでお気軽にご相談ください。アテックは、調剤薬局のM&Aの専門会社です。ファーママーケットというマッチングサイトを運営し、薬局を譲渡したい経営者と独立・開業したい薬剤師のマッチングを行っています。

これまで培ってきたノウハウや専門的な知識を活かし、調剤薬局の開業をサポートします。
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