調剤薬局の売却は、中小・個人ともに年々増加傾向にあり、理由として挙げられるのが、少子高齢化による後継者問題や、薬剤師不足による人材確保が難しいことです。こうした事情から経営を続けていくのが難しいとして薬局の売却を検討する人は少なくありません。

そこで今回は、調剤薬局を売りたい人に向けて、売却価格の相場と決まり方について解説します。後半では高値売却を実現する方法や、売却の進め方についてもご紹介していますので、ぜひ最後までご覧ください。

■調剤薬局の現状と売却を検討する理由

ここでは、調剤薬局の現状と売却を検討する主な理由について、紹介します。

・調剤薬局の現状とは 調剤薬局を経営しているのは小規模事業者が多く、500店舗以上展開している店舗は全体の6%程度に留まります。一方で、全体のおよそ6割は9店舗以下で、1店舗のみも3割近い数字を占めています。

そんな中、調剤薬局の市場は既に成熟していると言われており、これ以上新たに出店しても利益拡大を見込むのは難しい現状にあります。そのため、事業拡大を狙う大手チェーンなどは、6割ほどの小規模の薬局を集約し収益アップを狙うと見られます。

・売却を検討する理由 診療報酬の減額やジェネリック医薬品による在庫の圧迫など、様々な理由により、薬局の収益は減少しており、今後経営はさらに厳しくなると予想されます。さらに、薬剤師不足や大手チェーンによる競争激化、そして後継者不足といった問題もあり、廃業を検討する薬局も少なくありません。

しかし、門前薬局など医療機関と連携している場合には、廃業することで患者さんと医療機関に迷惑を掛けることになります。そのような事態を避けつつも、経営から退く効果的な方法として、売却という手段を検討する経営者も多いです。

■薬局売却価格はどんな要因によって左右するのか

売却価格の相場は、様々な要因の影響を受けると言われています。ここでは、特に影響が大きいと言われる要因についてピックアップしてご紹介します。

・利益 売却される薬局が、現在どの程度利益を出しているのか、また今後どの程度の利益が見込めるかは、買い手側にとって買収価格を決めるための重要な要素となります。特に薬局では、処方箋の需要や調剤報酬の金額が売上を計算する上で大きなポイントです。

処方箋の需要が多く、高単価を期待できる調剤技術料等のサービスを多く供給できていれば、高値売却につながりやすいです。そのため、門前薬局のように決まった医療機関の処方箋を多く取り扱っている場合、その医療機関の経営が安定していれば今後の需要も期待できるため高値売却につながる判断材料となります。

・財務状況の実態 合併や買収を考える企業にとっては、帳簿の数値よりも実態や時価の方が重要です。そのため、買い手側は購入前に売り手側の財務情報などを確認し、リスクを洗い出し、時価や実態の把握に努めます。

この調査によって、帳簿価格よりも収益や資産が少なくなったり、反対に費用や負債が増えたりしていれば、それは売却価格の算出にとってマイナスと判断されます。利益を水増しが見つかった場合には、利益の評価だけでなく、売り手の信用問題にも大きな影響を及ぼします。

仮に交渉の段階では大丈夫だったとしても、最後まで隠し通すのは非常に難しく、万が一発覚した場合には損害を補償する必要があります。

・競合相手 薬局の売却では、立地や人材力、技術力など競合相手より優位な部分があるかどうかは大きなポイントです。買い手と統合することで、優位性を生み出すことができれば、より売却価格の高騰が期待できます。また、購入したいと考える人が複数おり、買い手側同士で競合が生じれば、売り手にとって有利な状況となり、価格交渉次第ではより高値での売却も可能です。

・時間の制約 薬局だけでなく企業間同士の買収・売却でも言えることですが、資金繰りや健康問題等の不安から、なるべく早く売却したい事情があると、時間を掛けて相手を慎重に選び、交渉することが難しくなり、売却価格をはじめ様々な面で妥協しなくてはならない状況になります。

高値売却を目指し、納得のいく交渉を目指すなら、時間に余裕のあるうちから売却活動を始めるのが最良です。

・取引先 現時点では、取引関係に何の問題がなくても、買収・売却を理由に契約を解除された結果、経営に影響を及ぼすことがあります。そのため、失うと困る重要な契約関係については、事前に取引先と交渉し、継続に関する同意を得ることが大切です。

これは、契約書等のない口約束の取引でも同様です。もし、取引先の同意が得られず、売却後の経営に支障をきたす恐れがあると判断されれば、売却価格の下落はもちろん、契約自体が破談となる可能性があるため、注意が必要です。

■売却価格の相場と決まり方

続いては、売却価格の相場について、解説していきます。相場を知っておくことで、交渉を有利に進めることも可能です。

◎売却価格の相場とは 薬局の売却価格は、時価純資産額と営業権、そして技術料と処方箋の応需枚数によって決められます。

・時価純資産額 時価純資産額とは、現時点での企業価値を出す方法で、将来的な価値は含まれません。建物や土地の他、調剤するための各種機器や、保有している医薬品なども資産として計算します。

そして、これら全ての資産から負債を取り除いた金額を純資産とし、現在の価値に置き換えて算定します。つまり、時価純資産額は、現時点での総資産から負債を取り除いた現時点での企業価値の評価です。

・営業権 営業権は、売却側の営業利益から、貸借対照表には載らないリスクを取り除き、買収による付加価値を足して会社の価値を出す方法です。営業権は、1年に得た利益を会社の価値として算出しますが、計算は3~5年分の利益を含み行います。

つまり、価格相場は「1年の営業権×3~5年」となりますが、将来的な価値も含めて計算するため、実際の相場より高くなることもあれば低くなることあります。

・技術料と処方箋応需枚数 薬局の調剤では、技術料が発生します。それにより、毎月の売上から調剤技術料はどれくらいなのかを把握可能です。加えて、処方箋応需枚数がわかれば、薬局の売上も把握できるため、相場の決定では技術料と処方箋応需枚数が重視されています。

◎売却価格の算定方法 薬局の売却価格はどのように出すのか、主な算定方法をご紹介します。

・インカムアプローチ DCF法とも言われるインカムアプローチは、事業によって生み出される未来のキャッシュフローに目を向け、割引計算で現在の価値を算定します。つまり、企業の価値は、今後事業によって生み出されるキャッシュフローによって決まるという考え方です。得るであろう収益が先であればあるほど、現在の価値は減少するとして、割引計算を行います。

・マーケットアプローチ 市場基準方式とも言われるマーケットアプローチは、同業種や同規模の会社の市場における売買実績を参考に売却価格を算定します。そのため、条件が似ている会社であれば、売却価格も同じような価格になると推定できます。

条件が似ているかの判定は、事業規模やエリア、今までの業績などいくつかの項目によって選ばれた複数の類似会社と比較し、売却価格が算定します。

・コストアプローチ 資産基準方式とも言われるコストアプローチは、時価評価した資産から時価評価の負債を控除した時価純資産額に、将来得られる営業利益を加算した営業権を加え売却価格とします。

つまり、現時点での企業価値である時価純資産額に、将来的な価値の営業権を併せて評価するため、売却価格の算定方法としてよく使われています。

■高値売却を実現するには

売却するなら、できるだけ高値で売りたいと考えるのは当然です。一方で買収する側はできるだけ安く買いたいと考えるのもまた当然のことです。そのような状況で、できる限り売却価格を高くするにはどうすれば良いのか、高値売却を実現する方法についてご紹介します。

・薬剤師を複数名雇用している 薬剤師は常時人材不足と言われているように、薬剤師の確保に苦戦している企業も少なくありません。中には、薬剤師を確保するために薬局を買収する会社もあるほどです。そのため、薬剤師を多く雇用していればいるほど、買収側にとっては魅力的な条件となり、例えお店の規模は小さくても、高値で売却できる可能性が高いです。

・経営が安定している 高値売却を実現する上で、経営が安定していることは、大きなポイントとなります。経営が安定していれば、買収側にとっても将来的な見通しが立ちやすいため、事業拡大を目的としている場合にも選ばれやすくなるからです。さらに、複数社が買収を希望すれば、高値での売却交渉も効果的に行えます。

・経営に関する資料を用意しておく 個人など規模の小さい薬局であっても、経営に関する資料を用意しておくことで、交渉を有利に進めることにつながります。調剤に使用する機器や什器、そして薬剤の在庫など資産や負債をまとめて資料として用意しておきましょう。

現時点では、そこまで価値が高くなくても、将来的に成長し利益が見込めると判断できれば高値での売却も可能です。但し、将来性や成長性を判断するにも、何も資料がなくては難しいため、どうしても不利になりやすいです。交渉を有利に進めるためにも、判断材料となる資料を用意しておくことは、非常に重要です。

・売却するタイミングを見極める 売却を検討する理由は様々ですが、年齢や健康問題が理由の場合には、経営が難しいと感じたタイミングで売却を検討すると良いでしょう。個人薬局で跡継ぎがいない場合には、第三者に売却することで対価を受け取ることが可能です。

また、年齢や健康問題に不安はなくても、経営が難しいと感じた売には、売却を考えるタイミングと言えます。ただし、売却する際には業界全体の動きなどを把握し、適切なタイミングを見極めることも大切です。

■薬局売却の手法と流れ

薬局の売却は、株式譲渡と事業譲渡のスキーム(取引の枠組み)がよく使われます。事業譲渡は、売却側の会社の株主が、買収側に株式を売却し経営権を譲渡する方法です。株式を譲渡することで、売却側の会社は、買収側の子会社という扱いになります。

一方事業譲渡は、株式ではなく資産や負債、契約など事業そのものを譲る方法で、譲渡された授業は、買収側の会社に吸収されます。株式譲渡とは異なり、会社そのものではなく、複数店舗あるうちの一部店舗や展開している複数の事業のうちの薬局事業のみを売却できます。

一般的な売却の流れは以下の通りです。 ①売却する目的やどのような戦略でいくのか検討する ②M&Aをサポートする業者を選定し契約 ③候補企業を選定し匿名情報を提示しアプローチ ④秘密保持契約を結び、具体的な情報を開示し交渉 ⑤基本合意をしたら、デューデリジェンス(会社や事業について詳細に調査する)を行う ⑥最終交渉がまとまれば契約締結 ⑦M&Aの実行

薬局を売却するには、いくつもの段階を踏まなければならない上に専門的な知識も必要とします。スムーズに取引を進めるためにも、M&Aの知識のある専門業者に依頼するのがおすすめです。

■調剤薬局の売却ならアテックにお任せ

ここまで、薬局の売却価格の相場と決まり方を中心に、高値売却を実現するにはどのようにすれば良いのかについて、ご紹介しました。薬局の売却を検討する理由は様々ですが、売却するならできるだけ高くというのは、どの事案にも共通する願いです。交渉を有利に進めるためにも、ぜひ薬局のM&Aは専門業者であるアテックにお任せください。

アテックは、日本で初めて創業した調剤薬局M&Aをサポートする会社です。ファーママーケットという名のマッチングサイトを運営し、売却を希望するオーナーと買収したい企業側のマッチングを行っています。買収を希望する企業も多く登録しているので、自身の希望に合った売却を実現できる可能性も高いです。

また、これまで数多くのM&Aを仲介してきた経験と実績を活かし、公正な立場と専門的な観点からサポートいたします。より良い条件で売却できるお手伝いをしておりますので、薬局を売りたいと考えている方は、お気軽にアテックまでご相談ください。ファーママーケットの利用もお待ちしています。
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