薬剤師の中には、調剤薬局の開業を視野にいれて働いている方は多いでしょう。独立すれば自分が理想に思う医療が行え、仕事に対するやりがいも強くなります。開業というと新規により一から行うイメージがありますが、薬局M&Aも一つの手段です。
M&Aというと大きな企業が行うイメージを持ちますが、実は個人でも盛んに行われています。薬局M&A・事業承継により独立開業している薬剤師は増えているので、ぜひ開業の選択肢に検討してみてはいかがでしょうか?今回は調剤薬局の開業や薬局M&A・事業承継についてご紹介します。
調剤薬局を開業させるには?
薬剤師が自分の調剤薬局を持つためには、一般的に新規開業が必要です。では、実際に開業するためには、どうすれば良いのでしょうか?まずは新規開業に必要な資金や準備のポイントから見ていきましょう。
【新規開業に必要な資金目安】
開業にあたり最低でも物件を取得する資金と運転資金を事前に確保する必要があります。物件の敷地面積にもよりますが、10坪程度の調剤薬局なら取得費用を含めると450万円前後の資金が必要です。
・物件取得費用
例えば、家賃10万円の物件を10ヶ月分取得するとなると約100万円かかり、内装工事や什器・設備などの設置で約100万円、合計約200万円はかかります。これはあくまでも目安なので、開業地域や立地、内装工事の内容や業者によって必要な資金は大きく変わってくるので注意してください。
・運転資金
盲点になりやすいのが開業後の運転資金です。開業したばかりの調剤薬局は顧客が少なく、処方箋をとっても受け取れる利益は代金の3割になります。残りは2ヶ月後に振り込まれるので、安定した利益を築けるまでには半年から1年はかかるでしょう。
そのため、利益が安定するまで最低でも2ヶ月分の運転資金が求められます。運転資金の内訳は商品の仕入れや人件費を合わせて約200万円、また予備費用として約50万円を目安に用意しましょう。
何年かけても初期投資の額を回収できずに倒産する調剤薬局は珍しくないので、そうならないためにも準備資金を用意しておくことは大事です。ある程度余裕を持つことで、なかなか売上が上がらない時も精神的な負担は軽くなるでしょう。
【開業に必要な準備】
開業に必要な資金を確保しつつ、準備を進めていきましょう。準備で進めていく上で考えていきたいことは、立地条件と店舗・人材の確保です。
・立地条件
いかに集客できるかどうかが経営の成功を左右します。どこで開業するのか、立地条件はしっかり検討しましょう。
例えば、大学病院や大きな医療施設では処方箋を持つ患者が多いので、見込み客として拾えます。ただ、最寄りの病院が1ヶ所だけだと病院が閉鎖してしまった際にニーズが薄れてしまうでしょう。
見込み客の拾いやすさや周辺の病院・医療施設の数などを踏まえて、経営が上手くいきそうな立地条件を選定する必要があります。開業を成功させる重要なポイントなので、時間をかけて検討してください。
・店舗の確保
開業に必要な店舗を確保しなければなりません。一般的に商業施設のワンフロア、またはマンションの1階などを賃貸している薬剤師が多いです。
また、店舗探しをする際は、大衆薬(OCT)を取り扱うかどうかも考えましょう。大衆薬を扱えば病院からの患者だけではなく、薬を求める一般の顧客も集客できます。この場合は、人通りが多き、目に留まりやすい店舗が理想的です。
・人材の確保
一人で運営するのは厳しいので数人でも従業員がほしいところです。宣伝や広告を使って人材を集める方法がありますが、可能であれば人脈を活かして人材を確保してみましょう。自分の人脈が活かして確保できれば、宣伝・広告費をかける必要がないので、開業資金を軽減できるメリットがあります。
調剤薬局を始める際の注意点
調剤薬局の開業は軌道に乗れば、勤務薬剤師時代よりも年収アップに期待できます。その代わり、売上が上がらないというリスクを持ちます。オープンからいきなり黒字経営となるわけではないので、調剤薬局を始める際の注意点を理解しておきましょう。
・個人と法人、どちらにするか考える
調剤薬局を始めるにあたり、個人事業主と法人のどちらで開業するか決めなければなりません。この選択で経費の対象範囲や税金の関係に差が生じます。
経費は事業に関する出費が該当しますが、個人事業主は法人に比べて少し制限があります。例えば、自宅と調剤薬局が一緒になっている場合、経費として計上できるのは薬局で利用している分の割合だけです。一方、法人は会社名義であれば賃料や不動産所得税、固定資産税、修繕費なども含めて計上できます。
また、支払う税金や税率も変わってきます。税金面で考えると法人の方がお得と言われていますが、どちらが自分に合っているかじっくり検討して選びましょう。
・在宅医療を検討する
現在、調剤薬局の数は5万店舗以上存在しており、非常に激戦化しています。その一方で、今後は在宅医療に需要が増えると考えられています。需要が増える理由は高齢化社会であることと、調剤報酬の引き下げが関係しています。
日本は病院完結型から地域完結型に移行しており、その影響で全国の病床数が減少しています。政府の政策により病床が増やせない状況なので、在宅での看取り対応が必須と言えるでしょう。
また、患者の多くは自宅で最期を過ごしたいと希望しています。高齢化社会で介護施設の需要も高まっており、従来の外来よりも在宅でのケアにメリットがある時代と変化しているのです。
さらに、調剤報酬の引き下げで利益が下がる可能性があります。その懸念からニーズのある住宅医療の流れに乗ることを考えておくと良いでしょう。
・複数の店舗経営を検討
個人薬局は地元クリニックとの強い関係がない限り、顧客を一気に増やすことは難しいでしょう。厚生労働省の調査でも、個人や小規模の薬局と大規模の薬局の利益を比較した場合、店舗数が多い大規模の薬局の方が利益は多いです。
また、今は周りに薬局がなくても同じ診療科目を扱う薬局ができたり、最寄りのクリニックが閉鎖したりするリスクも考えられます。これらのリスクに対応するため、翌々は店舗を増やしてリスクを分散させる戦略を考えておきましょう。
新規開業する前にやっておきたいこと
薬剤師が新規開業をする際には、事前に取り組んでおくべきものがたくさんあります。では、薬剤師が調剤薬局を新規開業する際にやるべきことを紹介していきましょう。
・医療に関する知識の習得
新規開業や独立を考えているのであれば、まず医療に関する知識の習得は必須事項ではないでしょうか?例えば、医薬品情報や医療改革など情報を敏感にキャッチして理解に努めたり、地元や地域の情報に関しても理解したりと様々な知識を身に付けなければなりません。
医療機関に基づく処方箋の調剤も大切な業務になりますが、最寄りの医療機関の診療科や医療知識についてもしっかり学んでおく必要があるでしょう。これらが理解できているかいないかで、取り扱う医薬品や患者への情報提供など活用面が広がりも違ってきます。特に患者から聞かれた質問にすぐ答えられるような薬剤師は、信頼も得られやすいでしょう。
・診療報酬や調剤報酬の理解
若手の薬剤師の場合、診療報酬や調剤報酬までは習得できていないケースも少なくありません。しかし、大手の調剤薬局やドラッグストアに併設されている薬局では、調剤報酬について常に学んでいます。
特に調剤報酬については2年ごとに改定されているので、収益をどう上げるかの判断基準としても理解しておかなければなりません。診療報酬に関しても、動向をチェックして知識を得ておくようにしましょう。
・薬局の立地
調剤薬局は、店舗の立地によって処方箋の枚数が大体決まってきます。最寄りの医療機関や施設の処方箋の扱いなどを踏まえて、候補地にどのような世帯が住んでいる傾向があるのかも確認しておきましょう。長く経営していくためには、医療機関や医師の年齢、地域の患者層などが重要になります。
・シミュレーション
実際に新規開業して、毎月の利益がどのくらいになるのかシミュレーションを実施し把握しておきましょう。どのように開業するかによっても変わってきますが、実際に気になる薬局に足を運んで開業に最適な設備などを見ておくと参考になります。
・薬剤師会を知る
薬剤師会は地域ごとにありますが、それぞれの地域にトップにあたる方が必ずいます。新規開業の場合は、薬剤師会のトップに挨拶し、その地域での特徴を把握しておく必要があります。地域によっては、入会費・年会費などが高いところもあるので、薬剤師会の情勢などをチェックしておきましょう。
・その他
他にも、医薬品卸や価格調整のための交渉のコツや契約における知識も身に付けておくとスムーズに経営できます。調剤薬局は価格競争が激しいので、交渉する能力を上げておくと良好な関係も築きやすいでしょう。
また、独立する際には一緒に働く従業員も必要不可欠です。医療事務をはじめ、薬剤師などに声をかけたり、知人の紹介など根回ししておいたりすると人材不足を防げるでしょう。
新規開業と薬局M&A、何が違う?
薬剤師が独立を目指す時、多くの方は新規開業をイメージするでしょう。しかし、新規開業の他にも、薬局M&Aで開局するのも独立としての在り方です。薬局M&Aは、新規開業におけるデメリットを回避できます。
そもそも調剤薬局を新規開業すると、しばらくの間は処方箋の獲得や運営を軌道に乗せるために苦労しやすいと言われています。新規開業の場合、開業した月にすぐ収入が入るわけではありません。開業する際には医薬品や設備などの初期費用がかかるため、実質的な収入が増えない可能性があります。
想定していた処方箋枚数が回収できなかった場合は、いつまでも赤字になってしまうというケースもあり、開業から1年で撤退を余儀なくされた事例もあります。新規開業は、収支が安定するまでに半年〜1年はかかると言われていますが、薬局M&Aではその心配がありません。
薬局M&Aを利用した場合、既に処方箋枚数が十分にあり、取引先との信頼関係も良好に築けている店舗をそのまま引き継ぐ形になります。そのため、想定していた収支と大きく違うというリスクを抱えずに済むのです。
また、新規開業よりも初期費用を抑えられるので、安定した収入が見込めます。今後自分の調剤薬局を持ちたい、独立したいと考えている方は、新規開業だけでなく薬局M&Aを利用した薬局譲渡や事業継承なども検討してみてはいかがでしょうか?
薬局譲渡・薬局事業承継も視野に入れてみよう
現在、多くの企業・業界において団塊世代が引退年齢に突入したと言われています。それは調剤薬局でも同じで、そろそろ引退しようと考えている経営者がたくさんいます。しかし、平成18年から薬学教育が4年制から6年制に変わったのが大きな要因となり、現在は薬剤師不足が慢性化しているのです。
また、人口減少も深刻な課題となっており、どんなに引退したくても後継者が見つからず引退できないといった悪循環が生じています。そのため、薬局M&Aを利用して後継者を見つけ、薬局譲渡や事業継承しているケースが増えてきています。
薬局M&Aを利用すると、仲介会社を通じて売り手と買い手をつなぎ合わせ、譲渡の手続きをサポートしてもらえます。既存の調剤薬局を譲渡する形であれば、すでに医療機関や患者との密な関係が築けている店舗を買収できるので、競争に勝つ際に有利になるといったメリットもあります。そんな実態を踏まえ、近年では薬局M&Aの仲介会社が増えており、独立希望の薬剤師も多く利用しています。
中でも、1991年に創業したアテックはM&Aがまだ一般的ではなかった時代に、日本初となる調剤薬局M&A専門会社としてサービス提供を開始しました。薬局M&Aの仲介会社としては国内で老舗であると同時に、多くの実績もあります。
また、アテックでは薬局経営支援サービスも提供しているので、引き継ぎ完了後の経営に関わる知識やノウハウも身に付けられます。譲受側である薬剤師にかかる仲介料も業界では最安値となっているので、安心して任せられるでしょう。調剤薬局の譲渡を希望するオーナーと、独立したい薬剤師を掲載しているマッチングサイト「ファーママーケット」も運営しているので、参考にしてみてはいかがでしょうか?
薬剤師が調剤薬局を新規開業するためには、取り組むべきことがたくさんあります。しかし、実際に開業しても運営が軌道に乗るまでは時間がかかり、経営困難になってしまう可能性もゼロではありません。
薬局M&Aによる独立の仕方であれば、そういったリスクを防ぎ、安定した経営が見込めます。新規開業だけでなく、薬局譲渡や薬局事業継承なども視野に入れてみましょう。