2019年に改正された医薬品医療機器等法(以下、薬機法)の改正で、2020年9月から一定の要件をクリアした場合にオンライン服薬指導が可能となりました。オンライン服薬指導は浸透しつつありますが、これから調剤薬局の経営者を目指そうと考えているけれど詳しくないという方もいるでしょう。

そこで今回は、調剤薬局経営者が知っておきたい基礎知識やメリット、課題、考え方について解説していきます。オンライン服薬指導に関する知識を深めたいと考えている方はぜひ目を通してみてください。

■オンライン服薬指導とは?

まずは、オンライン服薬指導とはどのようなものか、基本的な部分から解説していきます。

・オンライン服薬指導について



オンライン服薬指導は、パソコンやスマホを使い薬剤師が患者様へ薬について説明するシステムです。従来のやり方だと、薬剤師が対面して指導することが薬剤師法と薬機法で義務付けられていました。

これは、オンライン診療で院外処方された場合でも同様でした。患者様もしくはその家族が郵送されてきた処方箋の原本を薬局まで持っていき、対面で指導を受けなければいけないという仕組みだったので、面倒だと感じた経験がある方も少なくありません。診療はオンラインでも自宅ですべて完結できなかったため、オンライン診療のメリットを活かしきれないという点は大きな課題となっていました。

・以前は限られた範囲のみで認められていた



2019年に薬機法が改正されるまでは、離島などの特区で一定の条件を満たした場合のみ認められていました。しかし、法改正に伴って全国的に解禁されることが決定されています。

離島やへき地など医療資源が乏しい地域に住んでいる方、何らかの事情で外出が難しい方などをサポートすることが、オンライン診療やオンライン服薬指導が導入された目的となっています。オンラインでできる仕組みを導入すると、薬剤師の負担を軽減したり、業務を効率化させたりするなどの効果も期待できるため、全国解禁されたのは調剤薬局業界における大きな革命だと言えます。新型コロナウイルス感染症が蔓延している現在、医療機関または薬局における感染リスクを軽減するためにも、オンラインシステムを活用することは有用です。

■オンライン服薬指導のメリット

オンライン服薬指導は、新型コロナウイルス感染症の蔓延によりさらなる拡大を見せました。その背景には、従来の服薬指導とは異なるメリットがあるからです。続いては、オンライン服薬指導のメリットにはどのような点が挙げられるのかご紹介します。

・薬剤師の負担を軽減し、業務を効率化させる



様々な業界で高齢化による新たな課題が生まれていますが、調剤薬局業界も例外ではありません。高齢化が今よりも深刻になっていくと考えられるため、薬局や薬剤師の需要はさらに高まるのではないかと想定できます。それを踏まえ、さらなる業務効率化は必要不可欠だと考えられています。

従来のやり方だと通院が難しくて在宅医療を受けている患者様に対して、薬剤師が自宅を訪問して対面指導を行うのが義務となっていました。しかしそれは大きな業務負担となってしまうため、改善すべき点でもあります。そのような状況も、オンライン服薬指導を活用すれば訪問が必要なくなるので薬剤師の負担は大幅に軽減でき、業務の効率化にもつながります。

・患者様の時間的な負担を軽減できる



オンライン服薬指導を行うと、患者様の時間的な負担も軽減できます。病院や薬局から離れた場所に暮らしていると、通院などが難しい場合もあります。対面指導を受けなければいけないとなると、患者様本人または家族が薬局まで行く必要があり、負担に感じている方も少なくありませんでした。

しかしオンライン服薬指導であれば、対面指導を受けるために足を運んだり、薬剤師が訪問してくれるのを待ったりすることもなくなります。患者様やその家族の時間的負担やストレス軽減につながるでしょう。

・院内や薬局内における感染防止につなげられる



新型コロナウイルス感染症の蔓延がきっかけで、医療機関における感染リスクを不安視し、できるだけ病院へ行きたくないと考える方も増えています。しかし、通院しなければ持病などが悪化してしまう恐れもあるので、通院しないという選択は不可能だと言えるでしょう。

そのような時も、オンライン服薬指導が大きな効力を発揮します。すべてオンラインで完結すでき、外出することなく薬を受け取れるからです。患者様にとっても医療従事者側にとっても感染リスクを最小限に抑えられる方法になります。

■オンライン服薬指導のデメリット

オンライン服薬指導は非常に魅力的ですが、デメリットだと感じてしまう部分もないわけではありません。では、どのような点をデメリットだと感じる可能性があるのかみていきましょう。

・インターネット環境がなければ利用できない



オンライン服薬指導は、すべてオンラインで完結するためインターネット環境がなければ利用できません。これまでインターネットを使う機会がなかった高齢者などにとっては、逆に不便だと思われてしまう可能性も考えられます。また、アプリの使い方など細かい部分のサポートをしなければいけない場合もあります。

調剤薬局側は、ハッキング対策を行ったり、第三者が内容を把握できないようにしたりといった準備もしなければいけません。情報漏洩対策を行うだけではなく、責任の範囲も明確にすることが重要です。実施するまでに細かい業務がいくつもあるので、それが負担になる可能性も大いにあり得ます。

・配送トラブルが起こる可能性がある



薬の配送に関するトラブルが起こる可能性も考えられます。対面の服薬指導なら、直接渡すのでトラブルが起こる可能性はゼロではありませんが、かなり低くなっています。

一方オンライン服薬指導は、自宅まで配送するので到着の有無は確認しなければいけません。また、冷所で保管しなければいけない薬に関しては、品質を維持するために梱包を工夫する必要もあります。クール便のトラックだと直接冷気が当たってしまうこともあるので、品質を落とさないようにはどのような梱包が理想的なのか考え、対処することがポイントです。

・コミュニケーションが上手くできない可能性がある



オンラインだと対面で会話するのと比べて、コミュニケーションが難しくなってしまうものです。対面なら、ちょっとした仕草などから患者様が理解できているか把握しやすい傾向にあります。

しかしオンラインの場合は、必要事項がきちんと伝わっているか、吸入や自己注射などは問題なく実施できているかなどの判断が難しくなってしまいます。画面越しの情報だと伝わらない部分があることを念頭に置きつつ、丁寧にコミュニケーションを取っていきましょう。

■オンライン服薬指導の残されている課題

オンライン服薬指導は、感染リスクを軽減したいと考える方が多い今の時代に適したシステムです。しかし、全国的に導入されてからまだ時間がそこまで経っていないこともあり、課題が残されています。では、どのような課題があるのかみていきましょう。

・配送の費用はどうするか



オンライン服薬指導だと、処方された薬を配送することになります。配送する際、送料などがかかりますがそれを患者様と調剤薬局のどちらが負担するのか、という点はまだはっきりしていません。新型コロナウイルス感染症の場合は、電話やオンラインで服薬指導を行った場合は調剤薬局側が配送などの費用を負担すると国が定めていますが、その他の事例では規定されていないのが現状です。

患者様自身の自己負担額に関しても上限が規定されておらず、それぞれの都道府県にある薬剤師会ごとに考え方が異なるため一律の対応はできていません。しっかりと煮詰めていくことは、より使いやすいサービスに進化させていくためにも必要だと言えます。

受診してから薬を受け取るまでのタイムラグがあることもきちんと説明しておかなければいけないポイントです。配送にはどの程度費用がかかるか、タイムラグはどの程度あるのか、といった点はあらかじめ説明して同意を得ておきましょう。

・ITリテラシーの程度に合わせた対応ができるか



前述したように、インターネット環境がないとオンライン指導はできません。このために環境を整えたとしても、慣れない方はスムーズに導入できない可能性も考えられるでしょう。普段から行っている対面服薬指導の際に、通信機器の使用経験やインターネット環境の有無などをヒアリングし、それぞれに合わせた対応ができるか否かも課題のひとつとなっています。

・電子処方箋や電子おくすり手帳へ移行できるか



オンライン診療やオンライン服薬指導が主流になっていく場合、電子処方箋や電子おくすり手帳へ移行する必要があります。現在は、オンライン診療でも紙媒体の処方箋に限られているので、患者様は郵送してもらわなければいけないという状況になっています。2023年1月に電子処方箋の導入がスタートできるようにシステム開発などを行っているようですが、すぐに普及するとは考えにくいでしょう。

また、導入がスタートしても使い始めたばかりの頃はスムーズに使えない可能性もあります。円滑に電子処方箋へと移行するためには、どのようなシステムなのか調べておくなど情報収集をしておくのがおすすめです。処方箋を発行するまでのタイムラグをなくしたり、紛失するなどのトラブルを軽減したりするなどのメリットも享受できるので、準備を進めておくのは必要だと考えられます。

おくすり手帳に関しては、紙媒体とデジタル媒体(アプリ)が混在しているという現状があります。対面服薬指導なら薬剤師がおくすり手帳に処方内容を記録できますが、オンライン服薬指導の場合は患者様自身が記録しなければいけません。記入漏れなどのトラブルも考えられるため、医師・薬剤師・患者様が薬歴を共有できる仕組みも構築しておくことも必要になっていく可能性が高いです。

■オンライン服薬指導を実施するために理解しておくべき考え方

オンライン服薬指導は、どうしても情報量が少なくなってしまいがちです。そのような中で適切なコミュニケーションが行えるように厚生労働省では基本となる考え方を発信しています。最後に、どのような考え方を理解しておくべきなのかご紹介します。

・薬剤師と医師の連携



オンライン服薬指導を行う場合、指導計画や指導内容などをフィードバックし、医師と連携することが重要になります。情報量が少なくなりがちなオンライン服薬指導だからこそ重要視されているのです。情報をしっかりと共有し、医療の質を保てるような環境を構築するようにしましょう。

・安全確保できる体制



患者様の安全を確保できる体制を構築することも重要なポイントのひとつです。関連する医療機関といつでも連絡できるような体制は必要不可欠になります。インターネットの不調や患者様の体調不良などが原因でオンライン服薬指導が中止となってしまうことも考えられるので、代替案も考えておく必要があるでしょう。

オンラインに限らず対面でも対応できるようにしておくなどの工夫が必要だと考えられます。オンラインと使い分けることにより、患者様の安全確保にもつながります。

・患者様の希望を優先する



オンライン服薬指導を導入するかどうかは、患者様の希望を優先するようにしましょう。希望しない場合は従来通りのやり方を継続することになります。また、オンラインの特性から提供できる情報が限定的になってしまう旨も伝えなければいけません。

・薬剤師の働き方はどうなるのか



オンライン服薬指導ができるようになれば、薬剤師は在宅で仕事ができるのではないかと缶がる方もいるでしょう。しかし、調剤薬局以外の場所で指導を行う場合は、プライバシーが確保できない可能性があるので、公衆の場では行わないなどのルールを厳守しなければいけません。そのため、常に薬剤師が在宅で仕事をするというのは日本薬剤師会でも想定していないとしています。

オンライン服薬指導は。新型コロナウイルス感染症の蔓延によりさらに普及してきました。しかし、まだまだ課題が残されている部分もあるので、さらにブラッシュアップされるべき仕組みとなっています。調剤薬局側が気を付けなければいけないポイントも多々あるので、導入を考えているなら理解を深めておくことが必要です。
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