近年、薬剤師過剰問題が大きな話題を呼ぶようになりました。厚生労働省によれば、薬剤師は今後も過剰になるとしており、対策が早急に検討すべきとしています。

そもそも、以前まで薬剤師不足が問題提起されてきました。ではなぜ薬剤師が過剰になるまでに発展してしまったのでしょうか?今回は、薬剤師過剰時代の原因や文科省で決定した今後の方針、調剤薬局が薬剤師過剰問題を見据え検討すべきことなどをご紹介します。現在の薬剤師過剰時代について知っておきたい方、調剤薬局は今後どのような対策を講じていけば良いのか知りたい方は、ぜひ参考にしてください。

■薬剤師不足から薬剤師過剰時代へ

日本では、医療の質を向上するために薬剤師教育に力を注ぎ、薬学部の新規開設や規制緩和、また医薬分業が進んできました。これにより、最近では薬剤師過剰が問題視されるようになっています。

・これまでは薬剤師不足と言われていた

そもそも、以前までは薬剤師不足が問題となり対策が叫ばれてきました。医薬分業が加速し、薬局やドラッグストアが急増したことで、処方箋対応するための薬剤師の需要が高まっていったのです。

薬剤師が1日あたりに扱える処方箋の枚数は法律で定められています。これは、緻密で正確な作業を行うためです。

しかし、多くの患者さんが訪れる調剤薬局では、大量の処方箋に対応しなければならず、たくさんの薬剤師を雇用する必要がありました。様々な要因が重なり、長い間調剤薬局業界では薬剤師不足が深刻な問題となっていたのです。

・2045年には最大12.6万人の過剰になる

厚生労働省は、2020年7月に「薬剤師養成及び資質向上等に関する検討会」を立ち上げました。検討会では医療の高度化や複雑化をはじめ、少子高齢化の進展や薬学部6年制過程の開始による変化などを議論する目的があります。薬剤師の養成に関わる課題では、これまでで既に10回もの議論が交わされています。

厚生労働省は、薬局・病院・企業・大学など、薬剤師の需要を積み上げて2020年~2045年の推移と薬剤師供給の見込みを比較し、需給推計を出しました。薬局薬剤師の需要は処方箋の発行枚数の推計を元に割り出されています。それによれば、2020年から10年間は処方箋枚数が増え続けますが、人口減少により2030年以降は横ばいで推移することがwかあっています。

2045年の処方線枚数予測では、9.3億枚という結果が出ました。そして、この処方箋をカバーするために必要な薬剤師の数は、2045年には20.6万人、外来の業務量が増えた場合は26.7万人、調剤業務機械化による差し引きをした場合は23.8万人となっています。

これに全国の薬局・病院・企業などで必要な薬剤師数を上乗せした場合、人口減少の影響を考慮しなければ40.8万人、少なく見積もっても23.8万人と言われています。しかし、薬剤師供給数を予測すると、2045年時点での供給見込みは人口減少の影響を考慮せずに45.8万人、人口減少を考慮しても43.2万人という結果が出ているのです。需要と供給を比較しても、2.4万人~12.6万人の薬剤師が過剰拡大することがわかっています。

・なぜ薬剤師過剰が叫ばれるようになったのか

では、なぜここまで薬剤師過剰説が叫ばれるようになったのでしょうか?そのきっかけは、薬科大学の新設にあると言われています。

2002年時点では、薬科大学・薬学部の数は46校でした。しかし、2003年の規制緩和で増加し、2021年で77大学・79学部までに増えています。これまで定員割れや薬剤師国家試験合格率の低下などが問題視されてきましたが、それでも毎年多くの薬剤師が誕生していることになります。

厚生労働省によると、2014時点で薬剤師の数は既に約28万8,000人となり、薬学部への入学者数を考慮しても過剰が懸念されるようになったのです。毎年、平均で約8,000人~9,000人の薬剤師が誕生していることを踏まえると、需要と供給のバランスは明らかに崩れてきています。

■文科省専門家会議で議論されたこと

2006年には薬科大学の6年制過程が始まっており、この前後には薬学部を新設する大学が増加しました。文部科学省によれば、その数は、2003年から2008年までの6年間で28学部となっています。2002年時点では、薬学部の定員総計は8,200人でしたが、2020年には1万3,050人に上っています。

このままでは学生獲得競争が激化し、就職困難者が相次ぐことが目に見えているのです。さらに、今後の人口減少によって大学進学者数が減少することも予想されており、定員割れや入試競争倍率の低い学部が増える可能性もあります。

薬剤師が過剰になり、就職困難な薬剤師が増加することを懸念し、文部科学省では専門家会議を開きました。専門家会議は、薬剤師の需要と供給が追い付かずに2045年には多くの過剰が生まれるとして設置したものです。

2022年7月22日に開かれた専門家会議では、早ければ2025年以降に6年制の薬学部の新設・定員の増加などを原則として認めない方針を取りまとめています。先にも述べた通り、薬学部は2002年時点で全国に46校でした。しかし、2021年では77大学・79学部にまで増えています。

この中には薬剤師教育の質の維持・確保における課題を抱える大学や薬学部も少なくありません。これに伴い専門家会議では、万が一定員割れになった場合、国の補助金の減額や不交付も検討すべきとの意見も交わされています。なお、文部科学省は、2022年度中には制度改正も視野に入れ議論を進めていくとしています。

■現場では薬剤師不足が深刻

薬剤師の過剰が問題視される一方で、現場では人手不足に陥っていると言われています。厚生労働者が2015年に行った人口10万人当たりの薬剤師数の調査では、都道府県別に見て薬剤師の数が最も多いのが徳島県、次いで東京都・兵庫県・広島県などとなっています。

特に上位のほとんどは政令指定都市のある都道府県であり、沖縄県や青森県・福井県などの地方では薬剤師が不足状態となっています。薬剤師過剰問題は決して全国的なものではなく、地方での需要は依然高いままなのです。

また、調剤薬局に勤務する薬剤師は、患者さんに医薬品を処方するだけでなく、老人介護施設をはじめとする福祉施設への納品や、在宅診療時の医薬品処方などにも携わります。中でも高齢化率の高い地域では薬剤師の需要が非常に高く、それは今後も続く可能性が高いです。

このまま薬剤師が不足してしまうと、その地域に住んでいる患者さんに十分な医療を提供できなくなり、そこで働く薬剤師は過重労働にあたらざるを得なくなります。過重労働が原因で薬剤師が退職してしまえば、薬剤師不足はさらに深刻化し、悪循環になっていきます。

近年では、調剤薬局・ドラッグストア・病院などに就職するよりも、製薬企業に就職した方が安定した昇給や高い年収が期待できると言われており、薬剤師として就職する人員は減少傾向です。また、薬剤師の男女比は4:6とで女性の方が多く、出産や子育てなどのライフイベントによって時短勤務やパート、休職をするケースも少なくありません。資格を持っていたとしても正社員・フルタイムで働く人は少なく、現場で働く人員は不足してしまう傾向にあるのです。

■薬剤師過剰時代に向けて打つべき対策とは

今後、薬剤師過剰時代が訪れることは明らかです。その上で、調剤薬局が打つべき対策とは何でしょうか?

・認定薬剤師を取得する

認定薬剤師とは、所定の単位を取得したことを申請し、認定された薬剤師のことを言います。自己研磨した成果のある認定薬剤師は、かかりつけ薬剤師の要件にもなっており、需要も高いです。調剤薬局で3年以上、当該薬局に12ヶ月以上勤務している場合は、かかりつけ薬剤師になることができます。

認定薬剤師は、実務実習指導薬剤師も薬学性教育に携わることにつながるため、社会貢献も大きいと言われています。薬剤師としての差別化を図るためには、キャリアアップや認定薬剤師を取得して知識を高め、経験を積む必要があるのです。

・ファーマシーテクニシャンを導入する

薬剤師の指示に基づき、医薬品のピッキングや調剤業務の一部を行うファーマシーテクニシャンを導入するという方法もあります。国内ではまだ馴染みがない制度ですが、厚生労働省は平成31年4月に「調剤業務のあり方について」という文章を通じて、薬剤師以外のスタッフが可能な業務について述べています。それによると、処方箋に記載された医薬品を揃える行為・薬剤師の監査前に行う一包化した薬剤の数量確認行為・専門的判断の必要がない業務などは、薬剤師の目の届くところであれば実施しても良いとしました。

また、近年では対物業務から対人業務へシフトしていく必要があると言われており、新しいやり方や技術で事業を進めていかなければなりません。実際に、中央社会保険医療協議会は2022年度の診療報酬改定に向けて調剤報酬の見直しを始めており、その中で20年度を踏襲し対人業務にシフトを促すよう報酬の見直しをすることが論点になるとしています。

厚生労働省もまた対人業務にシフトすることで、患者さんや住民との関わりの度合いが高くなり、薬物療法・健康維持・健康推進の支援に関われるようになるとしています。ファーマシーテクニシャンを導入し、スタッフで薬剤師の業務の一部を担い、負担を軽減していくことで生産性も上昇していくでしょう。

・薬局M&A

最後は、薬局のM&Aを検討することです。このままでは、将来的に薬剤師は飽和状態になる可能性が高く、売り手市場から買い手市場に変わっていくことが懸念されています。これには、M&Aの影響も一因すると考えられています。

しかし、調剤薬局のM&Aは事業承継手段の1つとして多くの経営者に選ばれており、売り手側のメリットが大きいこともわかっています。特に最近では、買い手となりうる有力な大手企業も増えています。地方では後継者となる薬剤師が見つからないケースも多く、引退したくてもできない場合が少なくありません。

また、調剤薬局業界では小規模事業者と大手チェーンとの収益性の差が開き続けており、競争は激化しています。調剤薬局の市場規模は約7兆円で、1店舗あたりの平均年間売上高は約1億2,000万円とされています。これでは薬剤師を2人雇うのがギリギリとなり、経営の非効率性も懸念され悪循環になってしまうのです。

M&Aを実施すれば、単独では困難な経営効率化が実現でき、事業の成長も期待できます。また、スタッフの雇用責任も果たすことができ、経営者が高齢の場合はスムーズな引退が可能となります。

もちろん、買い手側も新規出店コストが節約でき、人材確保しやすい点などから、お互いにメリットがあるのがM&Aなのです。薬剤師の過剰問題がある傍らでは、地方の薬剤師不足もまた深刻化しています。そんな中、M&Aを検討するというのも選択肢の1つになってきているのです。

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