国内の医療を支えている診療報酬は、医科診療報酬・歯科診療報酬・調剤報酬・薬価・材料価格などに分けられています。診療報酬は、その時の社会情勢や経済状況に応じて改定を行う必要があり、2年ごとに行われることが原則です。

2022年度も診療報酬改定が行われ、2022年4月より、新たに「リフィル処方箋」制度が導入されています。今回は、このリフィル処方箋について詳しくご紹介します。リフィル処方箋制度が導入されたことで、調剤薬局経営にどのように影響するのでしょうか。

■リフィル処方箋はどんな制度?

リフィル処方箋とは、症状が安定している患者さんが医師に許可された場合、医療機関を受診せずに薬を購入できる制度となっています。本来であれば、薬は医療機関を受診し、処方箋を受け取らなければ新たに薬を受け取ることはできません。持病や同じ症状で定期的に服用している薬がある場合でも、医療機関の受診が必須でした。

しかし、リフィル処方箋は、以前に処方された時と同じ処方箋を使って薬の購入が可能です。この制度を活用すれば、患者さんは医療機関を受診しなくても薬だけ受け取ることができます。加えて、医療機関の窓口や対応も少なくなるため、患者さんと医療機関の双方で負担軽減できます。

ただし、リフィル処方箋が有効とされるのは、3回までです。1回目は、医療機関を受診して発行された処方箋によって必要な薬が処方されます。そして、2回目・3回目は医療機関を受診せずに薬局に直接足を運び、薬のみ処方してもらうという流れです。

この期間は、薬を飲み終える日を次回の調剤予定日として、その前後7日間が処方箋の有効期限になります。有効期限を過ぎてしまうと、2回目・3回目であっても処方ができません。

リフィル処方箋は、すべての患者さんには処方できません。対象となるのは、医師がリフィル処方箋による薬の処方が可能か判断した場合のみです。症状が安定していて、医師が問題ないと判断した場合に限り、処方箋の下部にある「リフィル可」の所にレ点が入り、適用回数も記載されます。

また、国の規則でリフィル処方箋の対象となる薬剤には限りがあります。例えば、麻薬・向精神薬・湿布薬・新薬(薬価収載1年以内)はリフィル処方箋対象外です。他にも、副作用が疑われる場合や服薬状況が十分に把握できない場合などは、リフィル処方を中止する可能性もあります。

■分割調剤とはどう違う?リフィル処方箋の導入が必要な理由

国内では、以前より分割調剤という制度も活用されています。分割調剤制度は、リフィル処方箋と類似している部分があるように感じられますが、大きく違う点があります。ここでは、分割調剤との違いや、なぜリフィル処方箋制度の導入が必要だったのか解説していきましょう。

・分割調剤との違い

分割調剤は、2016年度の診療報酬改定で新たに導入された制度です。この制度は、医師が指示する回数に分割して薬を処方する仕組みが特徴です。例えば、長期保管が困難な薬剤の服用を続ける場合や、服用に不安を抱く患者さんのためにお試し期間を設ける場合などに活用されます。

これに対し、リフィル処方箋制度は、同じ処方内容を最大3回まで繰り返して使用します。分割調剤は90日分の処方を前提に30日ごとに調剤を行ったり、ジェネリック医薬品のような後発医薬品を処方したりする場合に行われるものです。このように、一見似ているように見えても、目的が大きく異なっていることがわかります。

・リフィル処方箋の必要性

リフィル処方箋の制度はアメリカで導入されたのが発端となり、その後カナダやイギリス、欧米などで導入されるようになりました。この制度が導入されたことで、アメリカでは初診か再診かどうかに関わらず、リフィル処方箋が出されるケースも増えてきています。

症状が安定している患者さんからすれば、症状の相談や薬の相談をするのではなく、薬を継続して処方してもらうために医療機関を受診するようなものです。また、医療機関側も、窓口や対応などの負担を考えれば、リフィル処方箋制度は早期に導入されるべきだったのではないかと考える人も少なくありません。しかし、日本では2022年4月に導入されたばかりの制度です。

リフィル処方箋には、医師の診察がなくても薬の処方が可能です。だからこそ、医療事故の恐れや薬剤師の責任が過大になることが懸念されました。

そんな中、日本では残薬問題が深刻化しています。残薬問題とは、本来服用するべきだった薬の飲み忘れや、飲み切らないうちに医療機関を受診したことによる重複によって余った薬を言います。残薬は、自己判断で調整したり飲み間違いにつながったりと非常に危険です。

残薬の総額は年々増え続けており、同じく増え続ける医療費を抑制するためには、残薬問題の解消が大きな課題となっていました。そこで、リフィル処方箋制度を導入すれば、医療機関を受診する患者さんが減るため残薬問題の解決や医療費の抑制につながると期待されたのです。

■メリットだけじゃない!調剤薬局でのデメリットは?

リフィル処方箋には、メリットが多くありますが、調剤薬局ではデメリットもあります。こでは、リフィル処方箋そのもののメリット・デメリットと、調剤薬局側のメリット・デメリットをご紹介します。

・リフィル処方箋のメリット

リフィル処方箋を活用するメリットとしては、医師や看護師などの業務負担軽減や患者さんの負担軽減が挙げられます。処方箋をもらうためだけに患者さんが医療機関を受診するとしても、医師は他の患者さんと同様に診察に応じなければなりません。

しかし、医療機関の受診が減ることで、その分他の患者さんへの高度な治療に専念できる時間が増え、業務の効率化につながります。患者さんも、何度も医療機関に足を運ぶ必要がなくなるので、負担が軽減できます。

また、患者さんが医療機関を受診する回数が減るため、年々増え続けている医療費の削減にもつながることもメリットの1つです。残薬を減らす効果も期待います。

・デメリット

デメリットとしては、医療事故や健康被害につながる恐れがあることが挙げられます。通常であれば、医師によるチェックと薬剤師によるチェックが行われるため、安全性の担保や責任についても明確に対処されていました。しかし、リフィル処方箋を活用すると医師によるチェックがなくなり、その分医療事故につながる可能性が高くなります。

医師は、患者さんが薬を服用している状態での経過観察を行っています。しかし、リフィル処方箋で経過観察の機会が少なくなるため、病状の把握がしにくくなり、患者さんの体調の変化や異変に気付くのが遅れてしまう恐れがあるのです。

さらに、患者さんの受診回数が減る影響で、医療機関の収入が低下する可能性もあります。リフィル処方箋を活用したことがきっかけで、病院離れにつながる可能性もあり、注意が必要です。

・調剤薬局におけるメリット・デメリット

調剤薬局においても、リフィル処方箋の導入はメリット・デメリットがあります。メリットとしては、薬剤師が患者さんの服薬状況を把握しやすくなるため、かかりつけ薬局としての稼働がしやすくなるといった点が挙げられます。

医療機関の受診がない分、薬剤師はこれまで以上に患者さんへ薬学的管理指導が必要です。残薬状況だったり、健康状態だったりと、患者さんとのコミュニケーションを密に取っていく必要があるため、必然的に患者さんの健康に寄り添った指導ができるようになります。

一方、デメリットとしては、薬剤師の業務負担が増加することです。リフィル処方箋は、通常の処方箋と同様に、調剤を受ける薬局は患者さん本人で決められます。

しかし、患者さんが調剤を受ける次回の予定確認であったり、予定の時期になっても患者さんが来局しなかったりする場合、電話で確認を取らなければなりません。仮に患者さんが他の調剤薬局での調剤を希望した場合、調剤の状況をはじめ必要な情報を患者さん本人に伝える必要もあります。

また、医療機関の受診が少なくなる分、調剤時には医師に代わって患者さんの病状の把握や体調の変化を確認した上で、受診の必要性を判断する必要があります。継続的な薬学的管理指導を続けるためにも、患者さん一人ひとりの病状把握は重要です。そのため、医療における責任が重くなる可能性が高いです。

■リフィル処方箋導入による薬剤師の業務への影響と課題

今後リフィル処方箋が普及すれば、調剤薬局経営において影響や課題が出てきます。ここでは、リフィル処方箋導入における薬剤師への影響と課題について解説します。

・業務負担の軽減が急務

今後リフィル処方箋が普及した場合、調剤薬局の業務負担は着実に増えてしまいます。患者さんの服薬状況確認の徹底や、患者さんの病状を把握して次回の処方が妥当かどうか判断しなければなりません。引き続き同じ薬剤を処方することが、医学的に見て不適切であれば。医療機関への受診を勧める必要があります。

また、継続的に薬学的管理指導を提供するためには、2回目以降も同じ調剤薬局で調剤を受けるよう説明したり、継続して薬剤師の指導を受けるよう伝えたりして、患者さんの理解を得なければなりません。同時に、1回目の調剤を行った時点で2回目以降の調剤予定日も確認して調整しておく必要があります。万が一患者さんが調剤予定日に来局しなければ、電話で調剤の状況を確認しなければなりません。

このように、リフィル処方箋が導入されることで、薬剤師の業務負担が増えてしまいます。業務負担をいかに軽減できるか、またこうした業務をいかに効率化させられるかが、今後の鍵となります。

・医療機関との連携が必須

患者さんに対して適切に薬剤を処方するためにも、医療機関との連携の強化が必要不可欠です。日頃からコミュニケーションを積極的に取ることで、患者の情報や服薬状況を把握しやすくなります。

患者さんの状態や服薬状況を見て、仮に調剤が不適切と判断されれば、迅速に処方医へ情報提供しなければなりません。その後も患者さんに対して適切な薬学的管理指導を続けるためには、医療機関との連携が必須となります。

・今後の課題

リフィル処方箋は、2022年4月に導入されたばかりとあって、現状ではリフィル処方箋はまだまだ普及が進んでいません。日本保険薬局協会の調査結果によれば、11,882件の調剤薬局のうち、リフィル処方箋の受付を行ったところは2,087件と、全体の17.6%に留まっています。そもそも、医療機関においてリフィル処方箋に対応していないところが現時点で多いということが、普及が進んでいない要因の1つです。

また、医療機関がリフィル処方箋の導入に消極的なのは、医療事故や健康被害へのリスクや、責任の所在などが関係しています。つまり、リフィル処方箋を浸透させていくには、安全かつ適切な医学管理や指導を行う必要があり、医療機関との信頼関係構築が必要なのです。

ただし、リフィル処方箋が普及すれば、患者さん本人が調剤薬局を選ぶきっかけになると言われています。2回目以降の手間をより少なくしようと、自宅近くの調剤薬局を選ぶケースが多くなる可能性があるのです。

そうなると、かかりつけ薬局として通ってもらうこと以外の経営スタイルが難しくなってしまうかもしれません。リフィル処方箋が浸透することで、医療機関に通う患者さんを門前で待つ経営スタイルが難しくなり、経営に苦慮する可能性があることも大きな課題です。

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