近年は、医療機関や調剤薬局を含め、様々な業界のサービスが電子化、デジタル化しています。調剤薬局ではオンライン服薬指導がそれに該当します。

オンライン服薬指導は、患者さんが調剤薬局に直接足を運ばずに、オンライン上で完結できる服薬指導のことです。オンライン服薬指導は患者さんにとっても調剤薬局側にとってもメリットがありますが、注意しなければならない点もあります。

そこで今回は、オンライン服薬指導を実施するまでのステップやメリット、課題などを詳しく解説していきます。オンライン服薬指導を導入することで調剤薬局がどう変わっていくのか知りたい方や、また今後の調剤薬局の経営をどうすべきか悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。

■調剤薬局もデジタルな時代に!オンライン服薬指導とは

診療報酬改定によって、調剤薬局ではオンライン服薬指導を行うことが可能になりました。ここでは、オンライン服薬指導の実施要件や、実施する場合に必要になるものなどを解説します。

・オンライン服薬指導とは



オンライン服薬指導は、患者さんが持つスマートフォン・タブレット・パソコンなどを通じてビデオ通話での服薬指導を行うことです。調剤薬局に足を運ぶことなく自宅にいながら薬の説明が受けられるため、利便性が高くなっています。処方された薬は、調剤薬局から発送され自宅で受け取る仕組みです。

服薬指導とは、調剤薬局で薬剤師が患者さんに処方された薬の詳細や飲み方を説明することです。これまで、服薬指導は薬剤師法・医薬品医療機器等法によって、原則として薬剤師が対面で患者に指導しなければなりませんでした。しかし、2020年に猛威を振るった新型コロナウイルスの影響で、オンラインの需要が高まり、同年9月には国家戦略特区内での特例としてオンライン服薬指導が行えるようになりました。

・実施要件



オンライン服薬指導には実施要件は、2020年の通知と現在とでは変更された点があります。これまで、オンライン服薬指導はすべての患者さんに行えるものではありませんでした。

基本的にはオンライン診療によって処方箋が発行された患者さんが対象で、かつ、3ヶ月以内に対面での服薬指導をした患者さんであること、かかりつけ薬剤師として服薬指導を行った経験があることなどが要件となっていました。そのため、オンライン診療以外で診療を終え、処方箋が発行された患者さんや、初めて調剤薬局を利用する患者さんは対象外となっていたのです。

しかし、2022年の診療報酬改定によって、オンライン服薬指導はもちろん、訪問診察以外での処方箋ならオンライン服薬指導が実施できるようになっています。調剤薬局を初めて利用する患者さんも、処方内容の変更がある患者さんも利用可能です。ただし、初診でのオンライン服薬指導の場合は、以下の処方は行えません。

・麻薬や向精神薬を処方する場合 ・基礎疾患がある場合など情報の把握が不十分で、特に安全管理が必要とされる患者さんへの薬品の処方 ・基礎疾患などの情報の把握が不十分な患者さんの8日分以上の薬の処方

・調剤薬局で必要になるもの



調剤薬局でオンライン服薬指導を実施する場合、ビデオ通話を行うための通信環境の整備や、オンラインでの処方箋受け付けが可能となるシステムの構築、薬の配送を管理するシステムの構築などが必要になります。オンライン服薬指導は患者さんのスマートフォンやタブレットなどにあるビデオ通話機能を使って行うため、遠隔での服薬指導を行うための通信環境を整えなければなりません。必要な通信環境については、厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」を参考にして確保する必要があります。

オンライン服薬指導を円滑に進めるためには、デバイスやネットワークなど、患者さんの要望に応じたものを適切に選ばなければなりません。使用するシステムはオンライン服薬指導を目的につくられたものもあります。

この他、医療機関からのメールやFAXでの処方箋情報を取得するためのシステムや、オンライン服薬指導完了後に薬を配送し、無事に届いたことを確認するためのシステムも必要です。合わせて、処方箋情報の保管や早急の配送なども徹底しなければなりません。

■オンライン服薬指導を実施するまでのステップ

オンライン服薬指導は、いくつかのステップを踏んで行っていきます。 ここでは、オンライン服薬指導を実施するまでのステップをご紹介します。

・医療機関から処方箋が届く



患者さんが対面診療またはオンライン診療を終えた後、オンライン服薬指導を希望すると医療機関から処方箋が届きます。通常は医療機関が発行した処方箋を患者さんが持ってくることで薬を処方しますが、オンライン服薬指導では医療機関からのメールやFAXなどで送付されます。ただ、患者さんがオンライン服薬指導を希望していても、医師に十分伝わっていなかった場合は患者さん自ら調剤薬局に持っていかなければなりません。

・服薬指導計画書を作成する



医療機関から処方箋が届くと同時に、オンライン服薬指導を希望する患者さんがいる旨 の連絡が届きます。薬剤師は、オンライン服薬指導を行うため服薬指導計画書を作成します。 服薬指導計画書には、処方された薬の情報や提供する上での決まりごと、説明内容などを記載します。オンライン服薬指導を実施する際には、この服薬指導計画書を元に進めていくのが一般的です。

・調剤を行う



服薬指導計画書を作成する際には、並行して調剤も行います。調剤は、普段患者さんに行っているのと同じように、処方された薬に間違いはないか、処方量が適切かなども含め患者さんの症状や健康状態と照らし合わせながら行っていきます。薬の調合を行って疑問や不明点が出た場合には、処方箋を発行した医療機関の医師に連絡を取り、十分に確認しなければなりません。

・オンライン服薬指導の実施



服薬指導計画書の作成と調剤が完了したら、患者さんにオンライン服薬指導を行います。連絡を取る際には、専用のアプリやLINE、電話などで行います。

オンライン服薬指導といっても、服薬指導で行う内容には変わりはありません。薬の効果・効能をはじめ、飲み方や飲み合わせ、取り扱いの注意事項などを丁寧に説明します。

・オンライン服薬指導の完了後の対応



オンライン服薬指導が完了したら、速やかに医薬品を配送します。患者さんの自宅に配送するのが基本ですが、場合によっては患者さんが直接受け取りに来ることもあるので、あらかじめ希望を確認しておいてください。また、配送料についてはオンライン服薬指導を行う際に伝えておく必要があります。

患者さんの元に無事医薬品が到着したことが確認できたら、必要に応じて患者さんの状況を医師と共有します。薬が適切に処方されていたとしても、副作用の症状が出ないとは限りません。万が一のためにも医療機関と調剤薬局とで連携を密にしておかなければなりません。

■オンライン服薬指導のメリットは大きい

調剤薬局でオンライン服薬指導を実施することには、大きく分けて3つのメリットがあります。ここでは、オンライン服薬指導のメリットをご紹介します。

・患者さんの負担軽減



服薬指導をオンライン上で行えるため、患者さんの移動時間・待ち時間の必要がなく、いつでも好きなタイミングでサービスが提供できます。直接調剤薬局に足を運ばなくて済むので、患者さんの負担軽減につながります。

また、自宅で療養しなければならない患者さんにとっては、自宅にいながら服薬指導が行えるということは貴重です。薬剤師と1対1のビデオ通話になるので、周囲に他の患者さんがいて話しにくいようなことでも気にせずに相談できる点もメリットです。

・薬剤師の負担軽減



オンライン服薬指導は調剤薬局の混雑緩和につながります。混雑緩和は他のお客さんの待ち時間が軽減されるため、待ち時間に関するクレームを受ける可能性が低くなります。

また、通院困難な患者さんに対しては、自宅に訪問して服薬指導を行う必要がありましたが、オンライン服薬指導が実施できれば対面服薬指導よりもスピーディーに行えるため、訪問に伴う薬剤師の負担も軽減されるのです。オンライン服薬指導を上手く活用できれば、同じ時間で何人もの患者さんの服薬指導が行えるようになり、時間的負担も軽減されます。

・感染予防



感染症が流行すると、対面での服薬指導では薬局内での感染リスクが伴います。オンライン服薬指導を選択する患者さんが増加すれば、その分調剤薬局での密を避けることができ、患者さんはもちろん薬剤師の感染防止につながります。オンライン診療・オンライン服薬指導とすべて外出せずに完結することができれば、感染リスクも最小限に抑えられるでしょう。

■メリットがある一方で課題も!オンライン服薬指導における注意点

オンライン服薬指導には大きなメリットがありますが、その一方で課題があることもきちんと理解しておかなければなりません。ここでは、オンライン服薬指導の注意点を解説します。

・医薬品の配送が必要になる



実際にオンライン服薬指導を実施する場合、患者さんへ医薬品を届けるための配送手続きが必要になる可能性が高いです。患者さんが薬のみ直接取りに来る方法もありますが、この選択は患者さんの希望次第となります。

医薬品の配送手段は明確に定められていませんが、医薬品を取り扱う以上、安全性の高い配送方法を選ばなければなりません。中には、調剤薬局のスタッフが配送エリアをそれぞれ設定して直接配送しているケースもあります。なお、配送する場合は患者さんの元に無事に届いたか確認できるようなシステムを利用すると便利です。

・患者さんの通信機器操作の理解に差が生じる



高齢者のように、患者さんのIT機器の操作のおける知識が乏しい場合、オンライン服薬指導が円滑に行えない可能性があります。オンライン服薬指導を行うには、各種通信機器の操作だけでなく、通信環境の整備における知識も必要です。

高齢者や通信機器に不慣れな患者さんにとっては、遠隔での服薬指導はハードルが高くなってしまいます。オンライン服薬指導を実施する場合は、IT機器の使用経験を確認した上で、一人ひとりに合わせた対応をとっていかなければなりません。

・処方箋やお薬手帳の電子化にも対応する必要がある



これまで、処方箋やお薬手帳は紙媒体でのものが基本となっており、オンライン服薬指導を行う場合も医療機関から紙の処方箋を送付してもらう流れとなっていました。しかし、近年は処方箋だけでなく、お薬手帳の電子化が進んでいます。厚生労働省は処方箋の電子化運用のための取り組みを2021年より開始し、2023年1月より電子処方箋の利用をスタートさせました。

電子版のお薬手帳は様々な団体や企業からアプリがリリースされています。例えば、eお薬手帳3.0は日本薬剤師会が、お薬手帳プラスは日本調剤が運営しています。こうした電子処方箋や電子お薬手帳への対応も、早急に進める必要があるでしょう。

■オンライン服薬指導の実施に向けてM&Aを検討しているならアテックをご利用ください

オンライン服薬指導を実施するためには、調剤薬局の設備を整える必要があります。しかし、経営難に陥っている調剤薬局も少なくないため、スムーズに移行できないケースもあります。経営に不安を感じている調剤薬局では、M&Aで体制を立て直そうとする動きが見られており、それと同時にオンライン服薬指導への対応も進められている状況です。

また、近年は小規模な調剤薬局を大手の調剤薬局が買収するケースも多く、M&Aは需要が高まっています。アテックでは、そんな調剤薬局のM&Aを行っている会社であり、創業当初から培ってきた豊富な実績とノウハウがあります。

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