今から準備しておきたいことは?

薬局に限らず、M&Aで理想の買い手を見つけるのは、なかなか難しいものです。

そもそも、売り手は客観的に自分の店のことを知りません。自分の店を知らなければ、欠点もわからないので、よりよく見せる工夫もしないでしょう。どんな買い手が理想なのか理解できないので、わがままな条件にこだわって良い相手を断ったり、逆に首をかしげるような相手に譲渡してしまうといったケースが出てくるわけです。

後継者がいない等、いずれはM&Aで譲渡せざるをえないことが分かっている場合は、少なくとも3年くらい前から準備を進めたいものです。

まず、把握しておきたいのは、自分の店の価格です。銀行などに頼めばすぐに計算してくれるし、中小企業庁では自分で計算できる簡易な計算式を紹介しています。

参考URL 中小企業庁「M&Aで株式を売却する際の価格を簡易自己診断」
http://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei20/q16.htm

多くの場合、店舗の価格はオーナーの予想より安いものです。

それは、実際に売却する時期に向けて、薬局の価値をあげていくモチベーションにしたいものです。また、現在の価格を知れば、多少は景気や法律の動向にも敏感になるでしょう。そうなればしめたもの。いつのまにか、今後価格が上がりそうか下がりそうか予測するようになり、売り時のタイミングをはかるようになっているに違いありません。

自分の店の今の価格を知っておく

価格を把握したら、次は弱点の補修です。弱点といってもピンとこない人がいるかもしれません。実は、大半の買い主が嫌がる典型的なウィークポイントというのがあるのです。

たとえば、営業時間が9時間以上と長い店。オーナーさんが、家にいてもやることがないから、とりあえず薬局にいようと暇つぶしに店をあけているケースが少なくありません。そうなると、地域の人にとっては、その店が遅くまでやっているのは当たり前になってしまいます。

さて、買い手としてはどうでしょうか。

オーナーが変わった途端に、閉店時間を早めるわけにはいきません。オーナー自らが営業する場合はまだいいのですが、薬剤師を雇うとなれば、長く開けている分だけ採算は悪化します。

ですから、欲をいえば、3年間の間に営業時間は8時間にまで短縮しておきたいものです。

その他に嫌がられるポイントは、医療機関の処方箋に対するリベート、従業員の高齢化、薬剤師の給与が高額、家賃が相場よりも高い、強い影響力を与えてくる医療機関の存在などです。

医療機関のリベート等は薬局だけではどうにもなりませんが、家賃の見直し、薬剤師の給与制度、高齢薬剤師の入れ替えなどは、不完全でも、できる範囲で手をつけておきましょう。多少の費用がかかっても、実行した分、コスト以上に譲渡価格が高くなることが期待できます。また、ウィークポイントが減れば、買い手候補が増え、よりよい条件で売れるはずです。

ウィークポイントは可能な限りつぶしておく

複数の株主がいる場合には、できるだけ株式を買い戻しておくことをおすすめします。株式譲渡の場合は、複数の株主がいれば、譲渡後も経営に関与してくる可能性があるからです。

事業譲渡の場合も油断はなりません。株式を保有している人が事業譲渡に反対する可能性があります。時には株主同士が譲渡を認める認めないで対立して裁判沙汰になることもあります。仮にM&Aの交渉中に、そんなことになれば大変です。

もちろん、株式を集める過程で、抵抗されることもあるでしょう。しかし、株価を高く買い取るとか、手放さざるを得ない理由を説明するなど、根気強く説得するしかありません。十分に時間をかけて説得するためにも、早い段階での準備が必要なわけです。

分散している株式は、できれば100%買い戻しておく

M&Aの準備はなかなか大変です。でも大変だと不満に思わず、逆にラッキーだと思ってください。もし準備していなければ、M&Aの交渉中に、こうした問題がすべて吹き出すことになるからです。

その時に、まだ働ければいいのですが、仮に働けない状態であれば、二束三文で手放すか、廃業しか手がないかもしれません。そうならないためにも、そしてよりハッピーになるためにも、準備は周到に進めたいものです。

薬局系事業承継の決定版
「上手に薬局を譲渡するための、たった一つの方法」より

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