譲渡先を探す前にウィークポイントの改善も必要
経営不振の薬局は、譲渡できないこともある
買い手の見分け方についてお話ししてきましたが、目を向けるべきなのは、相手だけではありません。自分の薬局の現状を、冷静に把握する必要もあります。
というのは、いくら調剤薬局が売り手市場とはいえ、経営不振の薬局は、譲渡が難しいからです。
たとえば、立地が悪く、調剤の件数が少ない薬局。処方せんの受取枚数が1日平均10枚程度では、譲渡は厳しいと言わざるを得ません。また、近隣の医療機関との関係がうまくいっていない薬局も、「引き継ぐ価値がない」と判断されがちです。加えて、「多額の借金をしている」「相場に合わない高値で土地を買い、未だ返済が終わっていない」などの事情がある薬局は、敬遠されます。
そのままの状態では、強気での交渉はできません。むしろ相手に買い叩かれることになるでしょう。最悪の場合、譲渡できずに、いつまでも営業を続けることにもなりかねません。
長期計画を立てて、改善できるところは改善する
もっとも、ここまでいかなくても、譲渡交渉が不利になる要素を抱えている薬局は少なくありません。
たとえば、「営業時間の長さ」はその一つです。住居が近い個人経営の薬局の場合、「家にいてもやることがないから」と、長時間、店を開けていることがよくあります。これは、患者さんへのサービスとしては良いことですが、買い手から見ると悩みの種でもあります。営業時間が長いと人件費が高くなるので、利益を上げにくくなるからです。かといって、譲渡を機に営業時間を短縮すると、既存のお客様が離れる可能性があり、削りにくい。こうした理由から、営業時間が長い薬局は、買い手から、譲渡価格のディスカウントを迫られる傾向があります。
少しでも高値で譲渡したいと考えているなら、買い手を探す前に、このようなウィークポイントを改善しておく必要があります。営業時間の例でいえば、夜9時まで営業しているなら、1時間短縮して、夜8時にしておくわけです。
下記に、代表的なウィークポイントを挙げておきました。これらに該当していないかどうかをチェックし、該当箇所があれば、なるべく改善しておきましょう。また、弊社の「薬局再生プログラム」では、家主との間に入って家賃交渉をするなど、企業や薬局の価値を向上させるサポートをおこなっています。
こうしたウィークポイントは、短期間で改善するのは難しく、最低でも1年は見ておきたいところです。それを踏まえれば、譲渡までのスケジュールは、1年半と考えるのが理想的でしょう。会社ごと売却する「株式譲渡」の場合は、さらに改善の時間がかかるので、3年半は必要です。
そんなに時間をかけたくないという人は多いと思いますが、急ぎすぎると、安い譲渡価格で売ることになりかねません。ハッピーリタイアを実現させるには、長期計画でじっくり取り組むことが大切といえます。
譲渡先を探す前に改善しておきたいウィークポイント
- ・営業時間が長すぎる(1日9時間以上)
- ・従業員が高齢化している
- ・薬剤師が不足している
- ・医療機関の意向によって経営が左右され、薬局の独立性が確立できない
- ・医療機関に処方せんに対するリベートがある
- ・駐車場の賃借料や家賃の負担がある
- ・家賃が高い
- ・雇っている薬剤師の給料が高い
アテック株式会社 取締役社長 鈴木 孝雄
「薬局オーナーのためのハッピー・M&A読本」より