調剤薬局の経営環境は一段と厳しくなる

もっとも、売り手市場とはいえ、今後も好条件で譲渡できるかは未知数、と私は予測しています。調剤薬局の経営環境が一段と厳しくなっているからです。

ご存じの通り、ひと昔前の薬局は非常に利益率の高い商売でしたが、もはやそんな時代は終わったことを、皆さんも実感していることでしょう。そのターニングポイントは、2000年4月の薬価改定。以来、薬価がどんどん切り下げられたことで、薬価差益が十分に確保できなくなり、薬局の経営は、極端に悪化してきています。

厚生労働省が2009年に実施した「第17回医療経済実態調査」を見れば、全国的に厳しい状況であることがよく分かります(※下表1参照)。「保険薬局の1施設あたりの月間損益」は、収益は増加していますが、費用がそれ以上に増えており、損益差額は54万9000円。2年前は84万3000円ですから、なんと30万円近く減少しています。

また、医薬分業率の伸びも鈍化しています。日本薬剤師会の調査では、ここ5年の分業率の伸びは、0.3~1.9%と微増にとどまっています(※下表2参照)。医療費抑制の流れからいって、今後も薬価が改定され、ますます薬価差が下がるのは、間違いありません。今後は、国を挙げたジェネリックの普及政策により、医薬品の在庫負担が大きくなることも確実でしょう。

以上の要素から推測すると、今後は、経営基盤の弱い薬局は、次々と淘汰されると考えられます。現在、調剤薬局の件数は全国に5万3304件(厚生労働省調べ)。これまでは右肩上がりで増えてきました。しかし、私の予測では、今後5年で、2万店近くが廃業に追い込まれ、3万4000~3万8000店に減ると見ています。廃業には至らなくても、利益を大幅に減らす薬局はかなりの数に上るはずです。

M&Aをするにしても、収益力が下がれば、それだけ、薬局の評価額が下がることも十分に考えられます。薬局の譲渡を検討するなら、タイミングについても、十分考慮すべきでしょう。

表1. 保険薬局の収益は悪化している(1施設当たり損益)

 個人法人全体
金額(千円)金額(千円)金額(千円)
19年6月21年6月19年6月21年6月19年6月21年6月
Ⅰ 収益6,7757,68312,44613,41611,93512,953
 1.保険調剤収益6,4217,42311,63712,86611,16712,427
 2.公害等調剤収益13634293227
 3.その他の薬局事業収益340254775521736499
Ⅱ 介護収益5733243023
 1.居宅サービス収益5715241423
 2.その他の介護収益00181160
Ⅲ 費用5,9446,95811,63412,90711,12212,427
 1.給与費6618382,0302,2251,9072,113
 2.医薬品等費4,7135,3878,4339,3528,0989,031
 3.委託費12741483746
 4.減価償却費8581120118117115
 (再掲)建物減価償却費342944374337
 (再掲)調剤用機器減価償却費161525312429
 5.その他の経費4856241,0101,1659631,121
Ⅳ 損益差額(Ⅰ+Ⅱ-Ⅲ)835733844533843549
Ⅴ 税金  143129  
Ⅵ 税引後の総損益差額(Ⅳ-Ⅴ)  701404  
施設数8178818888899966
処方せん枚数1,0351,0181,6811,6361,6231,586

厚生労働省「第17回・医療経済実態調査」より。保険薬局1施設の1カ月あたりの平均損益を表している。平成19年6月と21年6月を比較すると、約30万円、35%も減少している

表2. 医薬分業率の伸びは鈍化している

 処方せん受取率
(医薬分業率)
前年比増加率処方せん枚数前年比増加率
2005年度54.1%+0.3%6億4508万枚+4.2%
2006年度55.8%+1.7%6億6083万枚+2.4%
2007年度57.2%+1.4%6億8375万枚+3.5%
2008年度59.1%+1.9%6億9436万枚+1.6%
2009年度60.7%+1.6%7億222万枚+1.1%

日本薬剤師会「処方せん受取率の推計」より。ここ5年の医薬分業率の伸びは、0.3~1.9%と微増に止まっている。処方せん枚数の伸びも鈍化している

アテック株式会社 取締役社長 鈴木 孝雄
「薬局オーナーのためのハッピー・M&A読本」より

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