Q5. のんびり屋の息子が薬局経営者としてやっていける環境を整えたい。ついでに借金も片づけたい。

鎌田光男さん(仮名・68歳)は、2代目です。親から受け継いだ店舗を、7店舗にまで増やしました。薬剤師としての腕はもちろん、やり手経営者としても知られています。子供は息子さんが一人。当然のように薬学部に進学した孝行息子です。大学を卒業した後、大手の調剤薬局で3年間修行して、この春、実家の薬局に戻ってきました。

「息子が薬科大学に進学したばかりの頃は、将来は息子と一緒に10店舗、あるいはそれ以上に増やしたいといった夢を持っていました。店舗を増やしていくことは、やりがいがある楽しい仕事だし、たくさんの店を経営することが息子の幸せだと思っていました。でも、最近、それは私の単なるおしつけでしかないと考えるようになってきたのです」(鎌田さん)。

息子さんは、一人っ子のせいか、何ごともマイペースでのんびり屋。鎌田さんは、一緒に働のんびり屋の息子が薬局経営者としてやっていける環境を整えたい。ついでに借金も片づけたい。37第1章事業譲渡と株式譲渡Q&Aくことで、改めて息子さんの性格を思い出したのです。複数の店を切り盛りするには大変な労力が必要です。また、経営者であれば、常に資金繰りや採用難に悩まされます。寝る暇がないほど忙しかったり、時には従業員からつきあげを食うこともあります。鎌田さんは、そうした逆境に耐えながら店を増やし、会社を大きくしていくことが生きがいでした。

しかし、息子さんは違うタイプ。仕事の姿勢はまじめで丁寧。時間をかけてじっくり取り組むことを好みました。プライベートな時間も大切にしており、スポーツ、音楽、文学など幅広いジャンルの趣味を楽しんでいます。

「仮に全店を渡して経営させれば、息子の個性はつぶれてしまいます。もしかしたら、息子に合った薬局のカタチがあるかもしれないと考えるようになってきたのです」(鎌田さん)。

また、鎌田さんは拡大志向が強かったので、店舗やシステムなどに対する投資意欲は旺盛で、積極的に借金もしてきました。息子さんのために拡大志向をやめれば、もう借金してまで投資する必要はありません。会社を息子さんが十分に経営できる規模にダウンサイジングし、同時に借金を無くすためには、どんな方法がいいでしょうか。

A. 子供のために選りすぐりの優良店舗をひとつだけ残す。

まず、息子さんがもっとも経営しやすい店は、どれかを選ぶことから始めてください。注意していただきたいのは、売り上げが高いことが経営のしやすさではないということです。売り上げが増えれば、それだけ事務作業も増えるし、従業員の数も増えるので管理は大変になるからです。苦労しないように、お子さんに売上規模が1番小さな店を継がせたといったことは珍しくありません。

売上規模、店の大きさ、必要な従業員の数、地域性、病院やクリニックとの関係など、多様な角度から、息子さんの性格や力量と相性がいいお店はどれかを検討するわけです。

息子さんに継がせる店舗が決まったら、それ以外の店舗は鎌田さんが元気なうちに手放すのが鉄則です。息子さんは優しい方のようなので仮に鎌田さんが全店残したまま亡くなってしまえば店舗を手放せなくなるでしょう。しかし全店守ることは、息子さんには荷が重すぎるかもしれません。7店舗抱えたまま、経営不振に陥る可能性もあります。

一部の店を残すので、譲渡の手法は事業譲渡になります。買収額の交渉では、借金の全額返済をひとつの目標にしましょう。もし、全部返済できないようなら、店舗の売却はもう少し先にして、収益をあげて借金返済にあてた方がいいかもしれません。

事業譲渡、蒲田さんの場合

息子さんに適した店だけ残した、他の店舗のみ売約したい。蒲田さんの場合、ポイントは「息子さんにフィットする店舗」をしっかり見極めること。残った店舗を事業譲渡するわけです。

事業譲渡

薬局系事業承継の決定版
「上手に薬局を譲渡するための、たった一つの方法」より

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